2015 Fiscal Year Annual Research Report
人口減少社会における社会基盤事業の規範的手続き選択論
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15J07352
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 貴大 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 手続き選択 / 投票 / 公平性 / 無限後退 / 多数決 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会基盤整備事業の意思決定プロセスに関わる問題として,意思決定を行うべき主体は誰かというWHOの問題と,いかなる決め方によって決定すべきかというHOWの問題がある.本年度の研究活動では,これら二点に関して一定の理論的成果を得た.以下,各々について記す. 1) WHOの問題 集団内での相互評価を通じて特定の人物・団体(上の文脈では意思決定への関与主体等)を選出する状況では,各投票者が同時に候補者でもあるという特殊性から,ライバル候補への評価を歪めるなどの特殊な戦略的虚偽表明が懸念される.こうした虚偽表明を防ぐ性質(impartiality:公平性,公平無私)をもつ投票ルールが近年注目されてきたが,同時にその設計に関わる不可能性も提示されてきた.本研究では,impartialかつ各投票者を平等に扱う投票ルールが写像としての定義域,終域を様々に取り換えても共通にもつ性質を明らかにし,また評価スコアの絶対値に注目する投票ルールの有効性を示した. 2) HOWの問題 集団内の意思決定において使用される決め方(多数決やボルダ方式等)を民主的に定めようとすると,決め方の決め方,さらにその決め方が必要となり,無限後退に陥りかねない.本年度の主な研究成果として,[1] 論理的に可能なあらゆる決め方を考える際には,基本的な整合性(「決め方」と「決め方の決め方」各々に関する社会的判断の整合性,注目する階層の任意性,パレート基準との整合性など)を満たすことが困難となること,また逆に,[2] 大規模帰結主義社会において{プルーラリティ,ボルダ方式,アンチプルーラリティ}など3個程度の典型的な投票ルールを想定するとき,かなり高い確率(例えば上記の組み合わせで選択肢が3つの場合には約98%)で,regress convergenceと名付けた無限後退の解消現象が引き出せることを証明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人口減少社会における手続き選択論を考えるにあたり,上欄に述べた本年度の成果は一つの基本的枠組みを提示したと考える.本研究で見出されたregress convergenceとよぶ現象は,数十万人以上程度の人口を有する社会を想定したとき,少数の典型的な投票ルール間の選択に関わる無限後退が漸近的にはほとんど問題にならなくなることを示している.このことから,例えばある議題でのボルダ方式の使用が,無限後退を踏まえたうえで合理的に根拠づけられることとなる.一方,上の議論を含む社会的選択理論の多くの文献では,意思決定に関与すべき人の集合,すなわち社会は所与のものと想定している.しかしながらこの仮定は,人口減少社会における現代世代と将来世代の負担の対立等に代表されるような状況では,手放しに正当化することはできない.そこでWHOの問題に関する成果は,各人の判断をもとに「社会」自体を策定するための理論的起点として働きうるものと考えられる.
なお,【研究実績の概要】欄1)および2)[2]の成果はいずれも2016年に開催される学会での発表が現段階で受理されている.それぞれ,1)はThe 13th Meeting of the Society for Social Choice and Welfareにて,2)は2016 International Conference on Group Decision & Negotiationにて,発表予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は現在,【研究実績の概要】2)[2]に述べた成果の発展として,{プルーラリティ,ボルダ方式,アンチプルーラリティ}よりも本質的に強い漸近的な性質をもつ投票ルールの組を複数見出しており,意思決定の出発点としての手続き選択論に一層の剛健性を与えつつある.この点を整理・精緻化し,より一般の系での安定性を評価することを当面の理論研究の目標と考えている.
また,【研究実績の概要】欄において述べたような確率計算は,多面体の離散体積計算を行う既存のソフトウェアに依拠して実行している.比較的低次元では計算可能であるものの,より高次元(より多くの要素からなるルール組に対応する)での確率計算等を行おうとすると,計算システム上対応していないため,モンテカルロ法など,なんらかのシミュレーション手法を用いて確率計算を実行する必要がある.
また実証面では,吉野川第十堰問題や小平市都道建設に関する住民投票問題など,実際に手続き選択を巡って議論が膠着した課題を取り上げ,上記理論研究成果をもとに,その問題点,改善のための方針を明らかにすることを目指す.そうした個別事例の分析を経て,最終的には人口減少社会の中で,ステークホルダーらの関係,社会的ニーズが絶えず変化する建設業界において,柔軟かつ合理的に意思決定手続きを更新していくための方法論を明らかにすることを目指す.
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Research Products
(3 results)