2015 Fiscal Year Annual Research Report
発達障がいのある児童に対する通常学級児童との交流及び共同学習を促進する行動的支援
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15J07435
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
庭山 和貴 関西学院大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | インクルーシブ教育 / 交流及び共同学習 / 自閉症スペクトラム / 行動的支援 / 社会的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
インクルーシブ教育システムの構築が進められる中で、発達障がいのある児童が通常学級で学ぶ際、授業に参加することへの困難さや、他の児童との交流の少なさなどが課題として挙げられている。本研究はこれらの課題を、1.授業参加行動、および2.社会的相互作用の少なさという、教室内における具体的な行動の問題として捉え、これらの行動を促進する支援の実践研究を行うものである。 本年度は、社会的相互作用を促進する学級支援として、児童らがお互いの良い行動を見つけて報告する介入(Positive Peer Reporting)を、教師と協働で小学校の2学級で行った。そして、児童らの社会的スキル・相互作用および学校肯定感の変化を検証した。介入群の児童らには、お互いの“良い行動”を見つけたら、カードに書いて報告するよう求めた。教師がそのカードを集め、一日の終わりにカードを書いた児童と、良い行動をした児童の両方を賞賛した。このような介入によって、統制群と比較して介入群の学校肯定感の平均得点が有意に増加した。特別支援学級に在籍する自閉症スペクトラム障害(以下、ASDとする)のある児童も、通常学級に交流に来た際に本研究に参加した。ASDのある児童も、“良いことカード”を書く・書かれることによって仲間と交流できた。また行動観察においても、介入後、体育の時間の際に、ASDのある児童に働きかける児童数と働きかけの回数が増えた。 本年度はこの他にも、遊ぶ機会の設定と社会的スキル訓練を行うことで、ASDのある児童と通常学級の児童の社会的相互作用を促進する支援について、査読付きの国際誌に投稿し、現在査読中である。また、児童の授業参加を促進する学級支援と発達障がいのある児童への個別支援についても、査読付きの国内誌に論文を2件投稿し、うち1件は既に修正採択されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の計画以上に進展している。当初の計画では発達障がいのある児童のみを対象としたアセスメントおよび支援を行う予定であったが、本年度は学級支援として、発達障がいのある児童も含む複数の児童を対象とした支援の実践研究を行うことが出来た。研究実績の概要にて報告したように、本年度は児童らがお互いの良い行動を見つけて報告する学級支援(Positive Peer Reporting)を、教師と協働で実施した。このような学級支援によって、自閉症スぺクラム障害のある児童と他の児童との交流を促進することができた。それに加えて、引っ込み思案行動がよく観察されていた通常学級児童2名と他の児童の交流も促進することができた。具体的には、一人で過ごすことの多かった児童が他の児童と一緒に遊ぶようになった様子が観察され、社会的相互作用の回数も増えた。このように、児童間の交流を促進する支援を学級規模で導入することで、発達障がいのある児童だけでなく、通常学級に在籍する引っ込み思案な児童と他の児童の交流も促すことが出来た。 すべての子どもに対して適切な教育的支援を行うインクルーシブ教育においては、特定の児童に対する個別支援を行うだけでなく、本研究のように児童間の望ましい交流が行われやすい環境作りをしていくことが必要だと考えられる。本研究では当初予定していた個別支援よりも、より大きな枠組みで支援の実践研究を行うことができており、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、本年度行った児童らがお互いの良い行動を見つけて報告する学級支援(Positive Peer Reporting)の結果の分析をまず進める。本研究では、児童らがお互いの良い行動を見つけてカードに書くことで報告した。このようなカードを書いた・書かれた日付けと、児童の行動変化の時系列データ(他の児童との社会的相互作用の回数、社会的スキル得点の変化)を比較することで、本研究の学級支援が個別児童に及ぼした効果について、より詳細に検討することが出来る。このような分析を行うことによって、本研究で用いた支援方法の改善に繋げる。以上の分析が終わり次第、本研究の成果を論文としてまとめ、査読付きの学術誌に投稿する予定である。 また、昨年度までに行った児童らの授業参加行動を促進する学級支援と発達障がいのある児童への個別支援、そして本年度行った児童間の交流を促進する学級支援の3つの支援において、筆者が果たしてきた役割(担任教師への教示・フィードバック)を、特別支援コーディネーターに移行することを検討する。これまで実施してきた研究では、筆者が担任教師らと直接協働することを通じて、児童に対する支援を行ってきた。しかし支援の持続・普及といった観点からは、外部専門家である筆者が複数の担任教師らと直接協働するより、学校教職員にその役割を移行したほうが望ましいと考えられる。今後は、特別支援コーディネーターが担任教師らと協働する支援体制を整える。そして、このような体制下でこれまでと同様の支援を実施しても、発達障がいのある児童も含めて、児童の授業参加行動および児童間の交流が増えるのかを検討する。
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Research Products
(5 results)