2015 Fiscal Year Annual Research Report
『子どもの美術』とデューイ美的経験論の架橋:Lifeのための哲学と教育の融合研究
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15J07445
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西郷 南海子 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生き方を問う哲学 / 実践哲学の現代的意義 / 美的経験 / 大人と子どもの相互作用 / 終わりなき成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.デューイ教育論の現代社会への応答:デューイ的な教育実践は、日本でも大正デモクラシーや戦後民主主義の到来期にブームとなった。問題解決学習や統合カリキュラムが、その代表である。しかし、齋藤直子によれば「教育実践の方法〔…〕を超えて、プラグマティズムの哲学が広く人々の生活に根を下ろす思想として実践されることは稀であった」(『<内なる光>と教育』2009)。このようにデューイの教育論を方法論のみならず、生き方を問う哲学として、現代社会で具体的に応答させていくことに取り組んだ。この領域での研究が、教育を、コミュニティ全体にわたる「哲学」としてよみがえらせることを可能にし、その考察を2.へと発展させた。 2.美的経験の具体的フィールドとしての『子どもの美術』(図工教科書):同書は、冒頭に掲げられた「どんなひとになるのがたいせつか」という言葉が象徴しているように、子どもと大人が出会いを通じて、自己を問い直していくことを目的とした。それは、作品を生み出すことを通じて「子どもと教師が美しい生き方をともに探究する」という実践であった(同書『教授資料』1980)。デューイは、「終わりなき成長」すなわち相互作用の中で生を絶えず更新していくことを訴えた。そしてそれは、美的経験と不可分であった。申請者は『子どもの美術』をフィールドに、子どもと大人が出会いを通じて互いの生き方を問うという哲学のあり方を、現代社会に応答するかたちで描き出した。 3.デューイ美的経験論のさらなる掘り下げ:さらにはデューイ美的経験論を深く掘り下げるために、日本デューイ学会で「デューイ美的経験論における衝動性と知性の位置づけについて」として口頭発表を行った。今後の課題として同発表で注目したデューイの用語法(impulseとimpulsionの区別)を年代別に分析していくことが明らかになり、今後の研究の発展可能性がひらけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2回アメリカ哲学フォーラム口頭発表「ジョン・デューイの『生き方としての民主主義』の現代的意義――美的経験論からニヒリズムへの応答可能性」(立正大学、2015.6.27)、教育科学研究会「美的能力と教育」分科会・口頭発表「美的経験を通じた子どもの成長―ジョン・デューイの『経験としての芸術』を手がかりに」(松本大学、2015.8.9)、日本デューイ学会「デューイ美的経験論における衝動性と知性の位置づけについて」(明星大学、2015.10.4)。
上記の発表の機会を生かして、デューイ美的経験論についての考察を深めることができたが、それぞれの発表を経たことにより生じた疑問を解決を十分に解決できないまま次の発表を迎えてしまうという面があった。そのため今年度は、昨年度に突き当たった課題に再度向き合いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、2015年度の研究を発展させるべく、人々の「生き物」としての衝動が、コミュニティでの相互作用を得て美的経験へと至るプロセスを浮き彫りにする。2016年は、デューイの『民主主義と教育』出版からちょうど100周年に当たるため、デューイの教育論が再び脚光を浴びることになる。今年度は海外での学会参加(John Dewey 'Democracy and Education' 100 Years On, PESGB and the History of Education Society UK, with Homerton College and the Faculty of Education, University of Cambridgeなど)も視野に、2015年の課題(「研究実績の概要」3.を参照)を引き継いでデューイの用語法に丁寧に寄り添い、デューイ教育哲学の現代的意義をあらためて明らかにする。
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Research Products
(7 results)