2017 Fiscal Year Annual Research Report
『子どもの美術』とデューイ美的経験論の架橋:Lifeのための哲学と教育の融合研究
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15J07445
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西郷 南海子 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | 生き方としての民主主義 / 美的経験 / 美術教育 / 教育哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ジョン・デューイの民主主義の根幹にある美的経験を、図工教科書『子どもの美術』(現代美術社、1980-95、文部省検定済)という具体的なフィールドに架橋することで、lifeを軸とした哲学と教育の融合研究を切り開くことである。デューイにとってlifeとは、更新によって自己を維持するものである。ここでは、lifeの更新とは成長と同義だが、それは個体が(世代交代によって)肉体的に更新していくだけでなく、社会が習慣や思想を更新していくことでもある。このプロセスが、教育であり、デューイの提唱する「生き方としての民主主義」である。そのひとつの実践の場として、デューイが精力を傾けたのがバーンズ財団であった。同財団では、人種や国籍を超えた作家による作品が、多様な人々に享受される場として構想されており、ユニークな方法で作品が展示されている。この展示法に着目し、平成29年度は論文「A・C・バーンズとデューイの協働 バーンズ財団における民主主義のヴィジョンについて」を日本デューイ学会に投稿した。 作品の分類や属性ではなく、作品そのものと対話することで、経験の変容をうながそうとする芸術論は『子どもの美術』にも共通している。同書編纂のひとつの軸となった思想に、画家・北川民次のものが挙げられる。北川は1910年代後半をニューヨークで過ごし、美術を学びながら児童画の研究を行った。戦後北川は創造主義美術教育運動の理論的支柱となったが、北川の在米時代については先行研究も少ない。そこで、北川が絵を学んだThe Art Students League of New York等での調査を行った。北川が師事したJohn Sloanの芸術論と北川の芸術論を比較分析した論文「北川民次とジョン・スローン 絵を描くことを通じた物自体のとらえなおし」を執筆し、日本美術教育学会学会誌『美術教育』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
北川は、著作『絵を描く子供たち』(1952年)の冒頭で、ニューヨーク滞在中に「実証派(プラグマティズム)」から影響を受けたことを述べているが、平成29年度はそのことの裏づけとなる1936年の文書を米国から入手することができた。この文書については平成30年度に資料紹介として発表予定であるが(『教育史フォーラム』に投稿中)、北川民次とニューヨークの進歩主義学校Little Red School Houseとの具体的なつながりが判明した。同校はデューイが密接に関わった学校であり、その場となった進歩主義教育協会(Progressive Education Association)を通じて、デューイと北川の関係を論じられる可能性が高まった。この成果を土台に、平成30年度は博士論文を執筆する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度からの調査、研究の積み重ねを博士論文としてまとめる。具体的には、北川民次の美術教育思想を、1930年代アメリカの進歩主義教育の中に位置づけ、行為の中でその意味を発見していくプラグマティズムとしての側面を明らかにする。この方向性を博士論文の骨子として、論文を執筆し『教育学研究』(日本教育学会)に投稿する。
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Research Products
(4 results)