2015 Fiscal Year Annual Research Report
法律婚をこえて実践される親密性と共同性の比較社会学的研究
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15J07483
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
阪井 裕一郎 早稲田大学, 人間科学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 事実婚 / 同棲 / 結婚 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.法律婚をこえたカップルの比較社会的研究/「法律婚をこえて実践される親密性と共同性」について。第一に、昨年度に関東社会学会の機関誌に投稿した論文「事実婚カップルはなぜ『結婚』するのか」(松木洋人氏・本多真隆氏との共著)が修正を経て8月に刊行された。この論文は、これまでに実施した事実婚カップルのインタビュー調査をもとに彼ら/彼女らが「法律婚」ではないが「事実婚」として自らの関係を「結婚」と呼ぶことの意味を探究した研究である。分析によって事実婚カップルが「結婚」という語彙をめぐって差異化と同一化の複雑な実践をおこなっていることを示した。第二に、この論文を発展的に議論した分析を、関西家族社会学研究会、日本家族社会学会にて報告した。これらの報告では、前述の論文では対象から外した同棲カップルも対象に加え、日本における非法律婚カップルの多様性に迫ったものである。対象者の数は25名であり、対象者の語りを通じて現代日本における結婚に付与された意味を明らかにした。今年度は新たに事実婚当事者3名へのインタビュー調査を実施した。 2.結婚の歴史的研究/今年度もこれまで継続的に実施してきた結婚仲人の歴史的研究をおこなった(青弓社から『結婚仲人の近代』として2016年内に刊行予定)。明治から現代までの「結婚仲人」に関わる広範な文献資料を収集し分析をおこなった。仲人を通じて戦前・戦後日本の結婚観の歴史的変化を見ることは、現在の家族観・結婚観を探究する研究において不可欠な作業に位置づけられる。 3.博士論文の発展的研究/上記の研究と並行し、博士論文で展開した「家族主義と個人主義の歴史社会学」の研究についても調査を実施した(晃洋書房と出版に向け調整中)。上記の研究に比べると、より理論的・思想史的な傾向の強い研究である。これも、法律婚をこえた親密性と共同性の可能性・あり方を考えるための作業の一環である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の研究は、ほぼ予定通り進展したと考えている。従来からの課題であった修士論文および博士論文の出版に向けての執筆作業も並行して行っていたため、時間がとられるところもあったが、前者は歴史的な比較の観点から、後者は理論的な観点から本研究課題と深く関連するものであり、同時並行して取り組んだことには大きな意義があると考えている。本研究課題に関連した研究データとしては、これまでに収集したインタビュー調査データにもとづき、その分析や考察をおこない学会誌の投稿論文や学会発表のかたちで公開することに精力を注いだ。それと同時に、2月には新たな追加のインタビュー調査によるデータ収集も行っている。この追加調査は、1年目と2年目の研究をつなぐものであり、それをもとに2年目の研究が本格的に展開することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目は、異性愛の非法律婚カップルを対象に調査を進めたが、今後は共同生活する同性愛カップルにも調査を実施する。すでに申請者の知り合いの同性カップルやクイア研究者を通じて何組かに調査依頼を出した。欧州を中心に2000年以降多くの国で同性婚が法制化されているが、日本社会には今なおいかなる法的保障も存在しない。その意味でも、法の外で実際に生活を営む数多くの同性カップルの生活実態についての検討は今後ますます重要になる。同性愛のカップルはいかなる問題を抱えており、いかなる政策・保障を必要としているのか。法律婚や異性愛カップルとの比較やかれらの「家族」「結婚」観を探究することで、現代の親密性・共同性について考察していく。 さらに、二人暮らしではないカップルの共同生活の調査を進める。欧米の調査では、同棲カップルが2人で生活しているとは限らず、他の成人と同居することも多いことを明らかにしている。同棲カップルといえば、独立した世帯を形成しているイメージが強いが、これは必ずしも適切なイメージとはいえない。日本でもシェア居住のなかで暮らすカップルが増えつつある。近年シェア居住の研究が増えつつあるが、その中のカップルを調査した研究は存在していない。かれらへのインタビューを通じて性愛関係のみを基盤としないカップルの生活実践を明らかにしていく。 以上の調査を実施し、家事の分担、家計の共同、育児・介護等のケア関係、家族・親族関係などがどのように考えられており、実践されているのかを調査し、法律婚をこえて実践される親密性と共同性の現代的特徴を探究する。
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Research Products
(7 results)