2015 Fiscal Year Annual Research Report
AFM探針先端への選択的Au成長技術の確立とナノラマン分光への応用
Project/Area Number |
15J07791
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
板坂 浩樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 先端増強ラマン散乱 / 無電解成長 / 金ナノ構造 / シリコン / 原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、我々が過去に報告したシリコン表面での金ナノ構造の局所選択的無電解成長法を利用した、チップ増強ラマン散乱(TERS)用の新規探針作製手法に関するものである。この手法により、市販のシリコン製原子間力顕微鏡(AFM)探針の先端のみに金ナノ構造を成長させることが可能であり、このような探針をTERS測定に用いることで、従来TERSに用いられてきた金属コートAFM探針や走査トンネル顕微鏡探針よりも、TERS測定における空間分解能やラマンシグナルの増強度の向上が期待できる。当該年度における研究成果は下記の2点である。 1、金ナノ構造の形状制御 塩化金(III)酸水溶液の濃度や水溶液への添加物が金ナノ構造の大きさや形状に与える影響を調べた。液相合成において金ナノ粒子の異方成長を促進することが知られている塩化ナトリウムを上記の水溶液に加えることで、十数nmの先端径を持つ針状の金ナノ構造を探針先端に成長させることに成功した。本手法に関して特許を1件出願し、国際会議で1件の発表を行った。 2. TERS測定による性能評価 作製したTERS探針と市販のAFM-ラマンユニットを用いて、金薄膜を蒸着したガラス基板上に分散したカーボンナノチューブに対してTERS測定を行った。結果としてカーボンナノチューブ由来のスペクトルの増強を確認し、TERSイメージの取得に成功した。イメージ像の解析から空間分解能が8 nm以下であることが明らかになった。また金薄膜上のアゾベンゼン自己組織化単分子(SAM)膜のTERS測定から増強因子が約10の5乗程度であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究計画としては探針先端に適した形状(例えば、鋭い針状など)を持つ金ナノ構造の成長条件の探索と作製した探針を用いたTERSスペクトル及びイメージの取得を計画していた。1点目に関しては、塩化金(III)酸水溶液に塩化ナトリウムを加えることによりAFM探針先端に鋭い針状の金ナノ構造を成長させることに成功し、また濃度や成長時間等の反応条件を変えることによりその形状の制御が可能であることを明らかにした。その結果として先端径約十数 nm程度のTERS探針に適した形状の金ナノ構造を成長させることができた。ただし、得られる金ナノ構造の形状に関して再現性がやや悪いことから、今後再現性を高めるための工夫が必要であると考える。2点目に関しては、作製した探針を用いてアゾベンゼンSAM膜とカーボンナノチューブに対してラマンシグナルの増強を確認し、カーボンナノチューブに関してはそのTERSイメージの取得にも成功した。アゾベンゼンSAM膜の測定結果から、概算ではあるが増強因子が10の5乗程度であることが明らかになった。これは同条件下でアゾベンゼンSAM膜を測定した過去の報告例と比べても最大の数値である。また、カーボンナノチューブのTERSイメージ像の解析から空間分解能8 nm以下での分析が可能であることが明らかになった。これらの数値は実験条件や金ナノ構造形状のさらなる精査によって向上する余地があると考えられる。以上のことから、当該年度における研究は計画通りに進行しているものであると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1、先端形状の最適化 我々の手法で作製したTERS探針のさらなる空間分解能およびラマンシグナルの増強度の向上を目指して、最適な先端形状を再現性良く得ることができる金ナノ構造の成長条件を精査する。具体的には、塩化金(III)酸や塩化ナトリウムの濃度に関して最適な条件を検討する。その上で、得られた形状に関して、カーボンナノチューブあるいはアゾベンゼンSAM膜を用いたTERS測定を行い、空間分解能及び増強度を評価する。 2、従来のTERS探針との性能比較 従来のTERS探針との増強度の違いを理論的に検証するため、時間領域差分(FDTD)法により探針先端に生じる局在電場強度を計算する。さらに、我々の手法で作製した探針と従来の探針の空間分解能および増強度の違いを実験的に評価するため、市販の金属コートAFM探針(シリコン製AFM探針に金薄膜を蒸着したもの)を購入し、同じ条件下でTERSの測定を行う。使用するサンプルとしては、空間分解能評価にはカーボンナノチューブ、増強度評価にはアゾベンゼンのSAM膜を用いることを予定している。 3、ギャップモードを用いないTERSイメージング 上記のTERS測定はいずれも探針先端の金ナノ構造とサンプル基板表面の金薄膜のあいだに生じるギャップモードと呼ばれるプラズモンモードを利用している。ギャップモードを用いたTERS測定では探針先端の局在型プラズモンのみを利用する場合に比べて、空間分解能と増強度が向上することが知られているが、表面に金もしくは銀を蒸着した基板上にあるサンプルにしか適用できないという問題がある。そこで、我々の手法で作製した探針の適用範囲を広げるため、ガラス基板上に分散させたカーボンナノチューブに対してTERSスペクトル及びイメージの取得が可能であることを検証する。
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Research Products
(5 results)