2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J07867
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
榮 雄大 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 性分化 / 栄養制限 / 生殖細胞 / 性転換 / 代謝 / メタボローム |
Outline of Annual Research Achievements |
生殖細胞の特性(幹細胞性、減数分裂、代謝調節、生殖細胞の性)の栄養制限による変化をマーカー遺伝子の遺伝子発現で検証した。幹細胞性と減数分裂のマーカー遺伝子の発現は栄養制限により減少し、代謝調節と生殖細胞の性のマーカー遺伝子は栄養制限下においても、通常飼育と同程度の発現が認められた。 栄養制限の影響を網羅的に明らかにするため、①マイクロアレイ②CE-TOFMSによるメタボローム解析を計画した。①生殖細胞でEGFPが発現するメダカから、FACSにより2種の生殖細胞の単離を試みた。しかし2種の生殖細胞の完全な分取には至らず、マイクロアレイは行っていない。②栄養制限未処理・処理群のメダカ全体のメタボロームを、山形大学及川准教授の研究室と共同で解析した。その結果、主要なエネルギー産生系経路(解糖系、TCA回路)の代謝物は栄養制限により減少していた。一方で、パントテン酸等幾つかの代謝経路の代謝物で栄養制限による上昇が認められた。 代謝制御やストレス応答に関わる8種の遺伝子をCRISPR/Cas9を用いて破壊した。現在までに5種の遺伝子について変異系統を樹立し、その表現型を解析した。その結果5種の遺伝子破壊メダカの内、FoxO3b変異体は野生型と異なる表現型を示した。以下に表現型をまとめる。栄養制限期間における生存率;野生型との間に大きな変化は認められなかった。栄養制限期間での体長;野生型で栄養制限により認められた体長の伸長抑制が、FoxO3b変異体ではより強くなり、孵化後2日目以降の体長の伸長は認められなかった。生殖細胞数;野生型では栄養制限によりII型生殖細胞数が減少していた。FoxO3b変異体では、通常飼育でもII型生殖細胞数が減少していた。成魚の性;通常飼育したFoxO3b変異体からメスからオスへの性転換体が観察された。以上から、FoxO3bが性分化に重要な役割を持つことが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖細胞の特性やメダカ幼魚全体のメタボロームの解析については、当初の計画通りに進展した。特にメタボローム解析では、栄養制限によりエネルギー産生系経路が低下する一方で、逆に亢進が認められる経路や代謝物を発見することができ、次年度につながる結果を得られた。代謝制御やストレス応答に関与する遺伝子の遺伝子破壊については、8遺伝子の破壊に成功し、その内5種類について変異系統の樹立と表現型解析が行えた。5種類の内、2種類はふ化後5日目までに致死、他の2種類では野生型と比べて目立った表現型の差は認められなかった。その一方でFoxO3b変異体は、性分化時期の生殖細胞数の減少やメスからオスへの性転換が認められるなど、興味深い表現型を示した。次年度もFoxO3b変異体でのメタボロームなどの解析を進める。致死の表現型を示す遺伝子破壊メダカを救済するために、CRISPR/Cas9を用いた遺伝子導入によるレスキュー系統の作製を試みた。しかし、これまでに挿入予定領域に導入遺伝子が確認されたものはなく、難航している。マイクロアレイに関して、FACSによる2種の生殖細胞の分取が難しく、完全な分取を行うためには、細胞表面マーカー等による細胞標識が必要である。しかし、メダカの2種類の生殖細胞のそれぞれに特異的なマーカーはまだ見つかっていないため、実験の継続を断念した。またゼブラフィッシュに関して、系統維持にとどまり生殖腺形成の観察は行えなかったが、次年度行う予定である。以上より、おおむね順調に進展にしていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度作製し、まだ表現型解析の終わっていない代謝制御やストレス応答に関与する遺伝子の遺伝子破壊メダカについて、通常・栄養制限条件下における性分化時期の体長や生殖細胞数と成魚の性等の表現型を評価する。また、生殖細胞の特性(代謝調節、幹細胞性、減数分裂、生殖細胞の性)についてもマーカー遺伝子を用いた発現解析で検証する。昨年度の解析から代謝制御遺伝子FoxO3bの遺伝子破壊メダカでは、栄養制限の有無にかかわらずII型(性分化時期ではメスに特有)生殖細胞の減少とメスからオスへの性転換が認められた。そこで転写因子であるFoxO3bタンパク質が生殖細胞内や生殖腺体細胞内でどのような局在を示すかを、FoxO3b抗体による免疫組織化学で検証する。 昨年度行ったCE-TOFMSによるメタボローム解析の結果から、栄養制限により主なエネルギー産生系経路(解糖系、TCA回路)が低下し、その一方でパントテン酸代謝経路やグアニジン代謝経路の亢進そしてカルニチンの上昇が認められた。これらの代謝経路に関わる遺伝子の発現が、栄養制限により変化しうるのかをqRT-PCRまたはin-situ hybridization法を用いて解析する。またこの代謝変化がFoxO3b変異体メダカで起きているか否かを、メタボローム解析を通して検証する。パントテン酸やカルニチンが性分化に影響及ぼすかを検証するために、性分化時期のメダカ幼魚(通常飼育・栄養制限)にこれらを暴露し、処理後の生殖細胞の数や成魚での性(性転換の有無)を観察する。 ゼブラフィッシュの生殖腺形成の過程を生殖細胞でGFPが発現するトランスジェニック系統を用いて組織学的に観察する。それとともに、パントテン酸やカルニチン等のメダカの栄養制限で変化が認められた代謝物の暴露実験も行い、それらの代謝が性決定遺伝子を持たないゼブラフィッシュの性決定に関与するか否かを検証する。
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Research Products
(1 results)