2016 Fiscal Year Annual Research Report
紫外光渦シンセサイザーの研究とカイラル物質科学への応用
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15J07918
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐々木 佑太 千葉大学, 融合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 光渦 / 利得スイッチング / 第二高調波発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
らせん型波面を持ち、中心強度がゼロの光渦はこれまでに多くの検証実験がなされてきた。その中で光渦のアブレーション過程で光渦を物質表面に照射すると照射面の中心にニードル構造が形成されることが分かった。このニードル構造がどのような性質を持つかについては照射するパルエネルギーだけではなく、パルスレーザーのパルス幅にも依存し、過去にナノ秒やピコ秒パルスにおける光渦の照射実験も行われてきた。しかしナノ秒領域とピコ秒領域におけるその境界の領域における検証は十分に為されていない。従来の高出力ピコ秒レーザーではパルスの形成にモードロックの手法が用いられており、パルス幅は固定されてしまっていた。 本研究におけるパルスの形成法として新たに利得スイッチング方式に変えることによってピコ秒領域において、任意にパルス幅、または繰り返し周波数が変換可能である。また前置増幅器としてYb添加ファイバー増幅器、主増幅器として側面冷機Nd添加バウンス増幅器を用いることで中心波長1064nmの高出力パルス幅、繰り返し周波数可変高出力レーザーの開発を行った。これにより今後更なるアブレーションの解析が可能となる。さらに、アブレーション過程に留まらず多くの分野に応用が可能であり、本研究では開発した利得スイッチングレーザーを用いて非線形波長変換の一つである第二高調波発生を行うことによって中心波長532nmのグリーン光を発生させ、その変換効率は52%に達した。また光渦への変換はこの段階で位相変調器の一つであるらせん型位相版によりグリーン光渦を発生させた。この波長変換の過程によりより多くの物質に光渦の独特な性質を転写することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
利得スイッチングは元々通信の分野で使用されており、高出力レーザーの発生には不向きであった。本研究ではその改善策として上記で挙げたファイバー増幅器、バウンス増幅器を用いることで高出力化を図った。前置増幅器としてもちいたファイバー増幅器ではファイバーコア内で高ピーク強度が伝搬すると自己位相変調や誘導ラマンさんランなどのいわゆる非線形効果の影響を顕著に受けてしまう。その結果、増幅光に多大な影響を受け、さらに本研究で行った非線形波長変換のひとつである第二高調波発生の変換効率が低下する可能性がある。そのため、本研究では主増幅器として側面励起バウンス増幅器を用いることでこれらのような影響を排除することに成功した。しかし側面励起バウンス増幅器はファイバー増幅器と比べ熱がたまりやすく、それによる熱レンズなどの効果により増幅光に悪影響を及ぼす。本研究ではNd:YVO4結晶の励起面に熱電導度の高いサファイヤを接着させることにより結晶内の熱はけを向上させ、熱による悪影響を極限にまで低減させた。その後の、第二高調波発生の過程では、非線形光学結晶として温度制御により非臨界位相整合が可能なLBO結晶を用いた。LBO結晶では非線形波長変換の過程で問題となるウォークオフ効果を完全にキャンセルすることが可能である。これにより結晶に入力した中心波長1064nmの近赤外光とその第二高調波である中心波長532nnmであるグリーン光との空間的な重なりが維持でき、高い変換効率の第二高調波発生が可能になった。最終的に、光渦を発生させるのに用いたらせん型位相板は非常にコンパクトで使用が比較的簡単であり、発生したグリーンビームから高品質なグリーン光渦の発生が行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
前回まででパルス幅、繰り返し周波数可変な高出力、高品質なグリーン光渦の発生が可能となったので、今後は更なる光渦の波長領域の拡張のため紫外光渦の発生を行う予定である。これにより、266nmの紫外光渦の発生が可能となる。紫外光は産業分野への応用が可能な半導体や誘電体の吸収波長域に相当しているため、紫外光渦の発生は非常に有用である。しかし、紫外領域は様々な物質の吸収波長となっていることから効率的に紫外レーザーを紫外光渦に変換するような位相変調器が存在しない。そのため、前回までに発生させた高品質グリーン光渦レーザーを第二高調波発生を行うことで紫外領域への拡張が可能となるはずである。また、紫外領域では上記で述べたような非臨界位相整合を行うことが不可能であり、ウォークオフ効果をキャンセルさせることはできない。従来より、紫外発生のために使用されていたBBO結晶は特に強い複屈折を持つため、それに伴うウォークオフ効果の影響も大きい。そのため、先行研究では長い結晶長のBBO結晶を用いることはできなかった。今後の方針では2枚の薄いBBO結晶を光学軸が反転するように配置させることによりこのウォークオフ効果の補償を行う予定である。ウォークオフ発生する向きは結晶の光学軸に依るため結晶軸を反転させれば、ウォークオフの向きも反転できるはずである。これにより入力するグリーン光と第二高調波である紫外光の実効的な空間的重なりが保たれ、高出力、高品質な紫外光渦の発生が可能になるものと考えられる。また、マスタレーザーである利得スイッチングのパルス幅や繰り返し周波数の値を変えることによって発生する紫外光渦の性質の違いについても検討する予定である。
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