2016 Fiscal Year Annual Research Report
転写因子による好塩基球の分化・機能制御についての研究
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15J07928
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
佐々木 悠 横浜市立大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | IRF8 / 慢性骨髄性白血病 / 樹状細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
IRF8は樹状細胞 (DC) の分化を促進し、好中球の分化を抑制する転写因子である。IRF8欠損マウスは好中球の増加やDCの減少など慢性骨髄性白血病 (CML) 様の病態を呈する。我々は、慢性骨髄性白血病 (CML) において抑制されているIRF8の発現を回復させれば、好中球の過剰産生やDCの分化不全が解除され、抗腫瘍免疫が活性化される可能性を示してきた。本研究では、IRF8の発現回復によるCMLの新しい治療法開発を目指し、病因がん遺伝子BCR-ABLによるIRF8の発現抑制機構を解明することや、マウスで得られた知見をヒト細胞に応用することを目標としている。 我々はすでにIrf8遺伝子座付近に活性化エンハンサー領域を3カ所同定している。これらの領域の一部はBCR-ABLによって活性が低下することから、BCR-ABLはエンハンサーを減弱させることでIrf8の発現を抑制すると考えられた。昨年度は、どの領域がBCR-ABLの標的かを知るためにBCR-ABL導入後のエンハンサーの活性化状態を経時的に調べた。その結果、Irf8遺伝子の3'側のエンハンサー内でBCR-ABL導入後に最も早く減弱する領域 (3'エンハンサー) を見出した。この3'エンハンサーを欠失した細胞株 (Δ3'細胞) を樹立しIrf8の発現を評価した結果、Δ3'細胞におけるIrf8の発現は対照区と比較し約3分の1に低下し、Δ3'細胞にBCR-ABLを導入するとIrf8の発現がさらに減弱した。従って3'エンハンサーはIrf8の発現に重要であるが、BCR-ABLの作用点は他にも存在することが示唆された。これに加え、ヒト細胞への応用に向けて、健常人の骨髄由来の前駆細胞集団からのDC分化系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、我々はIrf8遺伝子座周辺に3つのエンハンサー領域が存在すること、その中でも3'側に存在するエンハンサーの一部 (3'エンハンサー) がIrf8の発現に重要であることを明らかにしている。さらに、BCR-ABLによって誘導されるC/EBPβがエンハンサー領域に結合することでIrf8の発現を抑制する可能性も見いだしている。これらの結果はIrf8の発現制御機構を解明する上で非常に重要な知見であり、CMLの新規治療標的探索にも繋がると考えられる。予期し得なかった問題点としては、C/EBPβ欠損マウスが成体まで生育する確率が非常に低く、実験に用いる個体が多量に得られないという問題があったが、既に成体のマウスではなく胎児肝の細胞を用いた実験に変更することで解析を進めている。一方、マウスを用いた実験に加え、ヒト検体を用いた実験も進めており、ヒト健常人の骨髄細胞から前駆細胞集団 (CD34陽性細胞) を単離し、DCへと分化誘導する系を確立した。この系を用いることでヒトにおいてもIRF8の発現回復がDCの分化不全を回復することができるかどうかを検証することができる。この実験は創薬のターゲットとしてIRF8が適切であるか否かを判断するために非常に重要な系となる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はまず、Irf8遺伝子付近に存在する3つのエンハンサー領域のうち、どの領域がIrf8の発現に重要であるかを調べる。エンハンサーの1つについては既にIrf8の発現誘導における重要性が明らかになっており、残りの2つのエンハンサーについても同様に欠失細胞株を作製し、検討を行う。さらに、欠失細胞株にBCR-ABLを導入することによって、Irf8遺伝子座におけるBCR-ABLの作用点を明らかにしたい。また、C/EBPβ欠損マウスの解析については成体マウスへの生育率が低いという問題があり十分な解析数がないものの、C/EBPβ欠損マウス由来細胞ではBCR-ABLによるDC分化不全が部分的に回復するという結果を得ている。平成29年度はC/EBPβ欠損胎児肝の細胞を用い、BCR-ABL導入時のIrf8の発現や、3つのエンハンサーの活性化状態についてより詳細に調べる。将来的にはこれらの結果をもとに、Irf8の発現に重要なエンハンサーを抑制する転写因子を同定し、その転写因子や上流のシグナル分子の中からCMLの治療標的を見出したいと考えている。 一方、正常な免疫細胞の分化においても、IRF8の発現量は分化段階によって変動しており、その発現量の違いがどのように生じるのかについては未だ不明な点が残っている。3つのエンハンサーによるIRF8の発現制御は、正常の免疫細胞分化に深く関わる可能性があり、非常に興味深い。そこで3'エンハンサー欠失マウスを作成し、免疫細胞の分化に及ぼす影響を評価したいと考えている。 これまで得られた知見のヒト細胞への応用については、健常人の骨髄細胞から前駆細胞集団を単離し、DCへと分化誘導する系を既に確立している。この系を用いてヒトCML骨髄細胞から前駆細胞集団を単離し、BCR-ABLによるDC分化不全並びにIRF8導入によるDC分化回復について検証する。
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Research Products
(4 results)