2015 Fiscal Year Annual Research Report
住民のアイデンティティ形成過程を考慮した地域資産の価値評価に関する工学的研究
Project/Area Number |
15J08041
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小谷 仁務 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 地域資産 / 社会ネットワーク / ゲーム理論 / 実践共同体 / アーティファクト |
Outline of Annual Research Achievements |
地域性を考慮したまちづくりや復興計画では、文化的景観や土木施設、人々が憩う河川敷や広場、祭りなどの「地域資産」が地域住民のアイデンティティ形成(生き方の選択)や地域の人間関係の形成といった側面に及ぼす影響も考慮されなければならない。だが、それを数理・数量的に評価する枠組みや評価法が十分に確立されているとは言い難い。よって、本研究は、住民のアイデンティティや人間関係の形成過程を考慮し、地域資産の役割・価値を議論する理論的枠組みと、それを基にした評価手法を確立することを目指す。具体的には、以下の2つのフェーズの定式化とそのモデルを用いた理論的・実証的分析を通じ、上記目標の達成を目指す。 -フェーズ1:地域資産に対する個人の関わりの深さが、地域人としてのアイデンティティ(生き方)を形成する構造。 -フェーズ2:上記の地域資産に対する関わりの深さは、一つ一つの地域の共同的活動(実践)を重ねる中で当人が地域資産や他の住民との間に蓄積したつながりと深く関連すると考える。その考えの下、地域の個々の共同的実践で地域資産(アーティファクト)や他の住民とのつながりが生まれ、それを機に地域の交流が拡大する構造。
平成27年度の成果は次の通りである。1) 上記の2つのフェーズの関係構造を整理し、フェーズ1における地域資産の役割を理論的・実証的に明らかした。2) フェーズ2で、地域資産として非日常的な行事・イベントを取り上げ、それらが人間関係を媒介し、日常のつながりに影響を与える構造を、ゲーム理論を基礎とした社会ネットワークモデルにより定式化した。大別すると、地域資産をネットワークモデルに明示的に考慮しないモデルと考慮するモデルを構築した。それらモデルを用い、ネットワーク外部性や動学的な観点から、地域資産が地域の日常の交流に与える影響を分析し、地域資産の役割や価値を定性的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、各フェーズの関連を整理し、フェーズ1に関する研究を完了した。一方で、フェーズ2に関する研究については、モデルの構築と定性的な分析をほぼ終えた。また、この成果を国内外の学会で発表した。一方で、1年目にフェーズ2の定量的分析まで進む予定だったが、その基となるデータ収集が平成27年度中に終わらず、平成28年度4月のうちにアンケート調査の発送・回収を終えることになった。そのため この部分に関しては若干の遅れがある。ただし、2年目に検討する予定だった キャリブレーション手法の開発を1年目に進めるなど、予定の調整も行っている。それらを勘案すると、総合的に、ほぼ遅延なく研究が進行していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、上記アンケート調査から得た回答を基に、フェーズ2の定量的分析を重点的に行う。共同的活動において地域資産が媒介する交流が日常の交流について与える影響を計量化することを通じ、地域資産の評価を行っていく。 また、フェーズ2の分析結果を論文にまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。
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