2016 Fiscal Year Annual Research Report
フォトニック結晶ナノレーザセンサの動作原理の探究と生体分析チップの実現
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15J08045
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
渡部 工 横浜国立大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | フォトニック結晶 / ナノレーザ / バイオセンサ / イオン感応性 |
Outline of Annual Research Achievements |
私はフォトニック結晶ナノレーザでのバイオセンサ応用を研究している.このセンサでのタンパク質検出原理は,タンパク質の吸着によるセンサ表面の等価屈折率の上昇だと一般的に考えられている.しかし,実験から見積もられる屈折率変化と検出時のタンパク質濃度は対応していない.つまり,一般的に考えられている他に,新たな原理があるはすだ.そこで,本研究ではその新原理の発見と解明を目指している. ところで,イオン感応型電界効果トランジスタが世に普及しているが,このセンサはタンパク質のもつ電荷を検出原理としている.つまりタンパク質吸着は屈折率だけでなく表面電荷も変化させる.そこで,私はナノレーザも電荷の影響を受けて発振波長を変化させていると考えた.昨年度の研究成果より,ナノレーザを空気プラズマに曝露すると水中で大きな波長変化が生じる現象を発見した.これはセンサ周囲の屈折率変化では説明できない現象であり,表面電荷の影響を示唆している.そこで,今年度はこの現象をさらに調査した.まず,原理として,表面電荷によって半導体内に形成されるショットキー障壁が変化し,それが半導体自身の屈折率を変化させると考えた.これを実験的に確かめるために,電気化学測定で半導体基板のフラットバンド電位を測定した.その結果,プラズマ曝露によって電位が変化し,予想通りの結果が得られた.同様に,プラズマ曝露後の半導体基板からの発光スペクトルも変化した.これら実験結果から,表面電荷による障壁の変化で半導体内のキャリアの蓄積量が変化していることがわかり,キャリア効果による屈折率変化が示唆された.以上より,表面電荷によって発振波長が変化する現象を実験と理論の両方から検証できた.これら検証に試薬や定常的な消耗品を購入したほか,研究成果を国内会議や海外での国際会議で発表したため,物品費と旅費を申請した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
提出した研究実施計画では,表面電荷と波長シフトの関係の調査を実験と理論の両方から行うことを目指し,それを達成できたため,おおむね順調とした.昨年度,ナノレーザを空気プラズマに曝露すると水中で波長シフトが生じることを観測した.これは従来の原理である環境屈折率の変化では説明できない現象であり,表面電荷の関与を示唆している.その原理は,プラズマによってナノレーザの表面電荷が変化し,それが半導体内のショットキー障壁を変化させ,最終的に半導体の屈折率が変化すると考えた.そこで,プラズマ曝露による障壁変化を検証した.電気化学測定でプラズマ曝露後の半導体基板(GaInAsP/InP)のフラットバンド電位を測定した.その結果,電位が負に変化した.これは障壁が大きくなったことを意味している.また,プラズマ曝露後の半導体基板からの自然放出スペクトルを測定した結果,半導体基板の量子井戸構造を形成する,分離閉じ込めヘテロ層からの発光強度が増大した.これは障壁が大きくなったことで,キャリアが蓄積されたことを示唆しており,フラットバンド電位の実験結果と対応している.この強度変化から見積もられる等価屈折率変化とプラズマ曝露による波長シフト量は一致し,理論的にも説明がついた.以上より,表面電荷変化による波長シフトの原理を,実験と理論の両方から検証でき,目標を達成できたので,おおむね順調とした.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究より,表面電荷と波長シフトの関係はおおよそ解明できたので,まずはこの成果を学術論文にまとめ,博士課程の修了を目指す.また,これをタンパク質検出とどう結び付けるかだが,実はタンパク質検出でも表面電荷変化を示唆する結果が得られている.普通に考えれば吸着量が多いほどシフト量も大きくなるはずだが,抗原抗体反応を利用したタンパク質検出では,必ずしもそうならない.つまり,高濃度での抗体修飾によるシフト量よりも,低濃度での抗原検出の方が,シフト量が大きい現象を観測した.この現象は私だけでなく,他の光共振器センサの文献でも見られた.また,一般的なバイオセンサ実験では,一番低濃度から徐々に高濃度タンパク質溶液へ変化させていくが,この一番低濃度を変化させてもシフト量が変化する.これら現象は従来原理では説明できない.しかし,抗原抗体反応は表面電荷の変化を生じさせるため,上記の現象を電荷の効果だと考えると,従来原理よりも納得のいく説明が可能となる.よって,本年度は昨年度の表面電荷による波長シフトと,これら現象についてまとめた学術論文を執筆する.また,このタンパク質と表面電荷の関係も実験から検証する.具体的には,ブロッキング処理などで検出直前のセンサの表面状態を変化させ,タンパク質検出によるシフト量の変化を観測し,理論と照らし合わせる.
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Research Products
(5 results)