2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J08073
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大森 康智 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 磁性体 / スピンホール効果 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
強磁性体においてスピンホール効果が生じることは、主たる実験系である面内スピンバルブ系において、考慮すべき現象である。そこで強磁性体についてスピンホール効果及び、起源を同一とすると考えられている異常ホール効果の温度依存性・抵抗率依存性から、スピンホール効果がどのような機構によって生じているのかを調べてた。鉄、コバルト、ニッケル、パーマロイについて、温度依存性が、異常ホール効果に比べて、スピンホール効果においては非常に大きくなることが分かった。この高温での特性は現行のスピンホール効果の理論からは説明できず、新たな機構であると考えられる。一方で、様々な電気抵抗率のパーマロイにおいて、低温で異常ホール効果、スピンホール効果を測定することにより、温度による効果を排して外因性及び内因性の分離を試みた。同一の起源をもっているため、スピンホール効果と異常ホール効果の間には、伝導電子のスピン偏極率で結び付けられる関係があるという予想が存在していたが、内因性の場合には符号すら異なることが分かった。 さらに、強磁性体中では磁化の方向によって対称性が変わるため、スピンホール効果が磁化に対してどのような依存持つか調べた。磁化に対して依存しないのではないかという結果が得られている。 その他、FIBを用いたジョセフソン接合の作製のため、有効な条件を出そうとしたが、ガリウムによる汚染などが問題であり、別途蒸着法を主としたプロセスを検討する必要があることが分かった。 また、白金におけるスピンホール効果の機構を詳細に解析した昨年度の研究を論文としてまとめ、Phys. Rev. B 94, 060412(R)-1~6 (2016) に出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していたFIBを用いたジョセフソン接合の作製のため、有効な条件を出そうとしたが、ガリウムによる汚染などが問題であり、別途蒸着法を主としたプロセスを検討する必要があることが分かった。そのため、現在は文献調査などをもとに、より可能性の高い系を模索している。その点で遅れが生じている一方で、分野にとって有用である強磁性金属におけるスピンホール効果に関して、高温では従来の機構では説明できない機構が存在していることを示唆する結果を得た。また、低温におけるスピンホール効果と異常ホール効果の機構を内因性と外因性に分離することによって、それぞれの寄与を実験的に示した。このことにより、従来はスピンホール効果と異常ホール効果が伝導電子のスピン偏極率によって単純に結び付けられると考えられていたが、それは誤りである可能性が高く、特に内因性の場合にはフェルミ面以下の局在電子の影響を考慮する必要があることが分かった。強磁性体中では磁化の方向によって対称性が変わるため、スピンホール効果が磁化に対してどのような依存持つか調べている。そのため、他の物質のスピンホール効果を利用して強磁性体中にスピン流を注入し、逆スピンホール効果の性の磁化依存性を測定している。現在のところ、スピンホール由来ではないと考えられる信号が分離されていないと考えられ、原因を究明している。 同時に、これらの知見を活かしてスピンホール信号の大きな物質を設計することが可能な可能性があることから、より電気抵抗率の大きなタンタル等を使ったデバイスを設計し、実際に白金に比べて一桁大きな信号を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
残る研究期間が今年1年であることを鑑み、当初予定していた、超伝導リング系にスピン注入を行い、逆スピンホール効果によって生じる超伝導電流の量子化を観測する、という最終目標まで到達するのは困難であると考えられる。これは、当初計画していた、適切な超伝導性を持ちかつ微細加工に耐性のあるジョセフソン接合系の作製が想定以上に困難であるためである。そこで、本年は、蒸着法を主としてスピン注入可能なジョセフソン接合系の作製を主な目的とする。さらに超伝導リングへの拡張を行い、逆スピンホール効果によって得られる、準粒子状態を介した超伝導電流への変換を電気的に検出することを目標とする。具体的には、ジョセフソン接合に関して、アルミニウム/ビスマス添加銅/アルミニウム系を検討している。これは、アルミニウムが酸化保護膜を容易に形成し、微細加工耐性が高いためである。 一方で、昨年度得られた強磁性体におけるスピンホール効果の温度依存性や、内因性及び外因性の機構の違いによる異常ホール効果との関係性、磁化依存性等について、文献調査や理論家との議論を主に行っていき、統一的な理解を目指す。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] 白金におけるスピンホール効果の抵抗率依存性2016
Author(s)
大森 康智, E. Sagasta, M. Isasa, M. Gradhand, L. Hueso, 新見 康洋, F. Casanova, 大谷 義近
Organizer
日本物理学会2016年秋季大会
Place of Presentation
金沢大学(石川県金沢市)
Year and Date
2016-09-13 – 2016-09-16
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