2015 Fiscal Year Annual Research Report
意味論・語用論の理論的境界に関する研究 ―文脈主義の立場から―
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15J08122
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
髙谷 遼平 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 言語哲学 / 意味論 / 語用論 / メタファー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に沿って以下の二点を中心的に研究した。すなわち、意味特性概念の明確化と意味論における位置づけ、そして急進的な文脈主義の、語用論の処理論との比較である。 一点目に関して、言語哲学において標準的であるD. カプランの二重指標意味論は大幅に修正が必要であることを示した。具体的には、「私」という指標詞は多くの場合発話者を指示するが、「思う」や「かもしれない」といった認識的様相オペレータとともに使用された場合発話者以外の対象を指示しうることから、指標詞は代名詞と同様に変項として扱うのがより適切であり、認識的様相オペレータが指標詞を束縛することで変項の値を変動させるということを明らかにした。さらに、指標詞を変項とする場合、標準的二重指標意味論においては発話文脈から指示対象への関数であるとされていた意味特性はむしろ指標詞の指示対象を与えるための前提条件なのであり、意味論的値とは異なる形で意味論のうちに位置づけられるとした。以上の研究は形式的アプローチでありながら現実の言語使用の多様性を十分に考慮している点で実践的である。 二点目に関して、急進的な文脈主義と整合的な語用論的理論である関連性理論の優位性を示すため、非字義的意味の典型例であるメタファーの分析を行った。具体的には、メタフォリカルな意味を要請する論理形式が存在すると措定することで、メタフォリカルな意味が発話の真理条件的内容を構成するとした。本研究においてメタファーとは表現の意味特性を変化させる言語現象であるとされ、意味論の入力の段階にメタファーが位置づけられるため、メタファーを字義的意味と同様の形で形式的に分析することが可能となった。以上のアプローチは関連性理論の主張と整合的であるだけでなく、関連性理論とは異なり真理条件的意味論という枠組みとメタファーの関係を明らかにした点で、一点目の研究を推し進めるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画からいくつかの変更があったが、なおおおむね順調と言えるのは次の理由による。 一点目の研究について、当初意味論の中心概念に据えようと考えていた意味特性に関して、従来とは異なる形で特徴づけるのが適当であることが明らかになった。これは研究開始時には予期していなかったが、その他の中心的概念(意味論的値、命題、外延)によって合成的意味論は十分に構築可能であることを示し、意味特性は指標詞の前提条件であると考えたことにより、十分に対処できた。さらに、このような大幅な修正の必要性を発見しその解決策を示唆的であれ分析したことにより、言語学分野の形式意味論における指標詞研究や前提研究と非常に親和的な理論の可能性を見いだせたことは想定以上の進展であった。 二点目に関して、メタファーの分析を通してグライス的語用論と関連性理論の比較・検討を行うことが当初の目的であったが、研究方針を若干変更した。まず、それぞれの立場の比較・検討よりも、メタファーに関する新たな理論の可能性を模索する研究を主に行った。この点で既存の理論間の関係を詳細に研究するという当初の計画が十分に進展したとは言いがたいが、次の点で予期していなかった成果が得られた。すなわち、一点目に記した形式的な意味論の構築とメタファーの接続である。この点はメタファーだけでなくメトニミーなどの非字義的意味にも拡張可能であるように見え、非常に有望なアプローチであると言える。二つ目の変更点は、上述のように新たな理論を研究したため、関連性理論のグライス的語用論に対する優位性を直接的には分析しなかったことである。しかしながら本研究はグライス的語用論の不十分性を示すだけでなく、関連性理論の主張と共通点も多いため、この点は間接的に達成されたと言ってよい。 以上より、本年度はいくつかの変更点がありながらも十分な成果をあげられたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は以下の二点を中心的に進められる。すなわち、第一に本年度の研究の継続及び発展、そして第二に、研究実施計画において記したように第一の研究と文脈主義との関係性の探究である。 第一の研究について、本年度の指標詞とその前提についての分析は、言語哲学的動機・観点から行われたものであった。その結果言語学における形式意味論との親和性が多分に見出されたことから、今後は形式意味論の先行研究を取り入れて学際的な研究を行いたい。具体的には、Cooperによる前提に関する先駆的研究(cf. Cooper (1983), Quantification and Syntactic Theory)を出発点に、HeimやYanovichなど前提研究の論者によってはそれほど具体的に行われてこなかった指標詞の前提と彼らの主要研究題材であった代名詞の前提を比較することで、言語哲学において長く論じられてきた指標詞の特異性が形式意味論的分析においても顕著であることを示したい。さらに、以上のように形式意味論において指標詞の研究を推し進めることは、近年哲学全般において盛んに論じられているいわゆる自己についての態度(de se attitude)の問題の解決にも役立つと見込んでいる。 第二の研究は以下である。意味論・語用論の境界問題における文脈主義的立場で常に問題視される合成性との整合性に関する困難について、意味論的概念の正確な特徴付けにより解決することを示すため、本年度の研究を基礎として意味論の諸中心的概念の整理とそれらの関係性の解明を主に行いたい。具体的には、RabernやNInanなどの先行研究をもとに、文脈的影響を受けない合成的意味論的値と文脈的影響によって生み出される主張内容(直感的な真理条件的内容)を区別することで、文脈主義に対する多くの疑義に答えることが可能となることを示したい。
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Research Products
(2 results)
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[Presentation] 非字義的意味の論理形式2015
Author(s)
高谷遼平
Organizer
MIPS2015 三田哲学会哲学・倫理学部門例会
Place of Presentation
慶應義塾大学三田キャンパス(東京都港区)
Year and Date
2015-10-24 – 2015-10-24