2015 Fiscal Year Annual Research Report
ナノボイドによる形態複屈折を利用した位相差フィルムの設計
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15J08243
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
島田 光星 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 形態複屈折 / 逆波長分散性 / 位相差フィルム / 多孔構造 / 結晶構造 / セルロース誘導体 / ポリエチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、「ナノボイドを有する高透明な逆波長分散性位相差フィルムの設計」を中心に検討を行った。 フィルム中の多孔構造に由来した形態複屈折および光線透過率を制御した。形態複屈折と光線透過率を両立するには、サイズが小さく、アスペクト比が大きい空隙が多数形成される必要がある。そこで、可塑剤の添加量を増やし、加熱一軸延伸時の加熱時間を短縮し、延伸速度を高めると、可塑剤除去後の複屈折は逆波長分散性を保ったまま正の方向に増加し、なおかつ光線透過率が工業的に応用可能なレベルに至った。これは、可塑剤の添加量と加熱延伸の条件によって分散相の形状を制御できたことを示唆する。すなわち、フィルムの調製条件および加工条件を考慮することで、形態複屈折と光線透過率の両立が可能であることが判明した。 また、単一材料中に発現する形態複屈折の基礎的な知見を得るために、結晶と非晶の屈折率差によって生じる形態複屈折について調査した。インフレーション成形およびTダイ成形されたポリエチレンフィルムの複屈折を測定した結果、正の逆波長分散性を示すフィルムと負の正波長分散性を示すフィルムが存在した。結晶構造解析の結果、これらのフィルムは流動方向と垂直方向にラメラが配向した row-nucleated structure を形成していることがわかった。ただし、それぞれのフィルムではラメラのねじれ構造が異なっていた。すなわち、ラメラのねじれ構造の違いが、形態複屈折の符号に大きく関与していることが示唆されている。 さらに、フィルムの材料選択を目的として、セルロース誘導体の一次構造と配向複屈折の関係についても検討した。置換度が低下するにつれて配向複屈折が正の方向に増加し、正の逆波長分散性を示すに至った。アセチル基と水酸基の寄与が足し合わさったことにより、逆波長分散性を示したと考えられる。 これらの研究結果をまとめ、学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度に、セルローストリアセテート(CTA)/可塑化フィルムの相分離評価、多孔CTAフィルムの光学特性評価、フィルムの微細構造解析と形態複屈折の評価を終了させることができた。これにより、本研究の目的である「ナノボイドを有する高透明な逆波長分散性位相差フィルムの設計」を達成することができた。しかし、平成27年11月、フィルムの微細構造の解析と形態複屈折の評価を行うために、構造の形状や配向を詳細に調査する実験に使用していたX線回折装置に不測の故障が生じたため、当装置の修理・調整が必要となり、フィルムの微細構造の解析と形態複屈折の評価を実施するための実験の再開までに2か月間を要した。そのため、研究結果をとりまとめ、新しい実験系の事前準備を開始するのが遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、可塑化CTAの相分離を利用してナノボイド構造を有するフィルムを作製した。このとき、加熱一軸延伸過程における相分離機構を考慮することでナノボイドのサイズやアスペクト比を制御し、光散乱を工業的に応用可能なレベルまで抑えつつ形態複屈折を制御する手法を開発した。 そこで、平成28年度は、形態複屈折により複屈折の波長依存性を制御する手法について知見を深めることを目的とし、単独材料における複屈折の発現機構について詳細に検討する。CTAは結晶性が高いことで知られている。そのため、高次構造の形成、およびひずみ印加時の挙動といった点に注目し、複屈折の詳細な発現機構について検討する。得られた知見を多孔CTAフィルムの設計に活用する。また、インフレーション成形およびTダイ成形されたポリエチレンフィルムについて、結晶構造と複屈折の詳細な関係を解明する。これにより、単独材料から成る機能性光学フィルムの設計手法の拡大を目指す。以上の検討から、形態複屈折を利用した機能性光学フィルムの設計指針を提案する。 得られた結果を学会で発表する。博士論文を執筆し、研究の総まとめを行う。
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Research Products
(10 results)