2015 Fiscal Year Annual Research Report
がん関連酵素の活性化に関わる亜鉛トランスポーターに着目したがん抑制に関する研究
Project/Area Number |
15J08286
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻 徳治 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 亜鉛 / 亜鉛要求性酵素 / ZnT / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
亜鉛を必須の活性補因子とする亜鉛要求性酵素の中には、がん細胞の生存・増殖・浸潤能の亢進に寄与するものが多く存在する。これまでのニワトリDT40細胞を用いた解析から、悪性度の高いがん細胞に高発現するマトリックスメタロプロテアーゼ2 (MMP2)や、カルボニックアンヒドラーゼIX (CAIX)といった亜鉛要求性酵素の活性化には、ZnT5-ZnT6ヘテロ複合体、ZnT7ホモ複合体に加え、ZnT4ホモ複合体が関与することを明らかにしている。本知見が、ヒトがん細胞においても適応されることを示すことができれば、酵素タンパク質そのものではなく、ZnT複合体や、ZnT複合体から酵素タンパク質への亜鉛の受け渡し過程を標的とするような新しい視点からのがん阻害剤の開発に繋がる可能性が考えられる。がん関連性の亜鉛要求性酵素を標的としたがんの治療や抑制を目指す上で、標的酵素の亜鉛獲得メカニズムを明らかにすることは解決すべき重要な課題の一つである。しかしながら、MMP2やCAIXをはじめ両酵素をはじめ、数多くあるがん関連性亜鉛要求性酵素の亜鉛獲機構はほとんど明らかになっていないのが現状である。そこで本研究では、まずDT40細胞で得られた知見がヒトがん細胞においても適応されるか否かを検討するための解析を実施した。加えて、MMP2やCAIX以外のがん関連性亜鉛要求性酵素にも着目し、DT40細胞を用いて上記ZnT複合体が新規に着目した酵素の活性化に寄与するか否かを検討するための解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では複数種類のヒトがん細胞を用いて、内因性のMMP2ならびにCAIXを高発現し、shRNAを用いた標的ZnTのノックダウンによって酵素活性の評価が簡便に行えるようなヒトがん細胞株のスクリーニングを実施した。しかし、内因性酵素の発現量や標的ZnTのノックダウン効率の面から、条件を満たすような細胞株を見出すことができなかった。従って、ヒトがん細胞を用いた新規の酵素活性評価系を構築する必要がある。 上記解析に加え、MMP2やCAIX以外のがん関連性亜鉛要求性酵素にも新規に着目し、DT40細胞を用いてZnT4、ZnT5-ZnT6、ZnT7複合体が着目したがん関連性酵素の活性化に寄与するか否かを検討するための解析を実施した。複数のがん関連性酵素を用いて網羅的な解析実施した結果、ZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株において、がん遊走因子として知られるオートタキシンの活性がほぼ完全に消失すること、酸性条件下におけるがん細胞の生存能亢進に寄与するCAXIIの活性がわずかに低下すること、そしてがん細胞の浸潤能亢進に寄与するゼラチナーゼであるMMP9の活性が低下することが明らかとなった。さらに、MMP9に関して詳細な解析を実施した結果、MMP9活性低下は、ZnTの欠損によって前駆型酵素から活性型酵素への成熟過程が阻害され、活性型酵素の発現量が低下することに起因する可能性が示唆された。また本結果を受け、MMP2に関しても再度詳細な解析を実施した結果、MMP2に関してもZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損DT40株において活性型酵素の発現量が低下している可能性が示唆された。すなわちZnT5-ZnT6、ZnT7複合体がMMP2、MMP9両酵素の成熟過程に寄与する共通の経路である可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、解析に適したヒトがん細胞を見出すことができなかった。加えて、これまでの解析からZnT4, ZnT5, ZnT6, ZnT7をノックアウトさせた四重欠損DT40細胞株においてもMMP2、CAIX両酵素にある程度の残存活性が認められており、これを考慮すると、ZnT複合体をノックダウンしてもヒトがん細胞における顕著な標的酵素活性の低下とそれに伴う細胞生存能・浸潤能の低下が認められない可能性が考えられた。そこで本研究員は、ZnTが、がん関連性酵素の活性に与える影響をヒトがん細胞において正確に評価するためにはヒトがん細胞に発現するZnTを直接ノックアウトするアプローチが有効であると考え、今後、CRISPR/Cas9システムによるヒトがん細胞を用いた標的遺伝子欠損-再発現実験系の新規構築を計画・実施予定である。加えて、両酵素の残存活性に寄与する因子を見出すため、DT40細胞に発現が認められる上記ZnT以外の亜鉛輸送体に着目した解析も実施する。 加えて、がん関連性酵素の中で、がん遊走因子として知られるオートタキシンは、その活性がZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株でほぼ完全に消失すること、マトリックスメタロプロテアーゼMMP2、MMP9は、亜鉛トランスポーターZnTの欠損によって前駆型酵素から活性型酵素への成熟過程が阻害され、活性型酵素の発現量が低下することを明らかとした。今後は、各酵素のZnTを介した活性化機構の詳細な分子メカニズムを明らかにするため解析を実施していく。またMMP2、MMP9に関しては、両酵素をそれぞれ安定発現させたDT40野生株、ならびにZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株を用いてヌードマウスへの移植実験を検討、実施し、活性型酵素量の低下による腫瘍形成能の低下が認められるか否かの検討を実施する。
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Research Products
(4 results)