2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J08344
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北村 理依子 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 国連における信教の自由の保護 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国連における信教の自由の保護を中心に研究を進めた。信教の自由に関する規定を有する国連の作成した人権条約には、世界人権宣言、自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約、宗教的不寛容撤廃宣言、移住労働者と家族の権利条約、教育における差別禁止ユネスコ条約、先住民族の権利に関する国連宣言などが挙げられる。これらに規定される宗教的人権に関連する条約文は、同じ信教の自由を規定するものでも条約により差異があり、この差異をどの程度重視すべきなのかは別途検討が必要である。しかし、国連における信教の自由について記述した書物は、多くの場合、信教の自由に関するトピック毎に国連の作成した文書を一体のものとして議論しており、上記に挙げた条約の信教の自由に関する条文も国連システムとして包括的に議論できる。さて、信教の自由の関連条文は、信教の自由それ自体を規定しているものと、差別禁止規定において宗教を理由とした差別を禁止するもの、宗教的マイノリティを保護する規定に大別される。3つ目のマイノリティ保護の枠組みによる信教の自由の保護は、未発展の分野であるが、信教の自由それ自体を規定する条文と差別禁止条文は、規範的議論の蓄積があり、現実の人権侵害の際に援用される。
国連システムにおける信教の自由の保護の重要な特徴をいくつかここに挙げるならば、総論的には、前述のように信教の自由を規定する条約や文書が多数存在し、それらが総体として国連システムを形成していること、法的拘束力は有しないものの宗教的人権に関する義務を規定する特定の条約である宗教的不寛容撤廃宣言が採択されており、同宣言は個人主義的なアプローチを超えて宗教的人権の集団的側面を認める文書に近づいていることにある。各論的には、国連が普遍的な機関であるため、紛争地における事実上の権力組織による人権侵害が問題となること等がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の目的および構成を再考した。現時点では、以下のような結論にいたっている。すなわち、研究の目的は、国際人権法を理解するための一要素である「人権の普遍性」の議論を出発点とし、信教の自由の普遍性を考察することを目的として、国際法上の信教の自由を同定することである。すなわち、信教の自由に普遍性は見られるのか、そしてそれはどの程度見られるのかという視点から、信教の自由の内容を整理して、その普遍性の基盤をなす原理が何か、あるいは、その普遍性を揺るがす原理が何かを検討する。この論文を執筆するにあたって必要な論点は、①人権の普遍性および相対性に関する議論、②各人権保障条約における信教の自由の保護範囲の規範的相違点、③各条約における信教の自由の保護範囲の実践的相違点、④信教の自由の普遍性を推進するまたは阻む因子の考察である。②は各人権保障条約における信教の自由に関する条文の比較を通して、③は各条約の条約体による実行の比較を行うことを通して研究を進める。
上記の方針のもと、今年度は、昨年度まで行ってきた②、③の研究をさらに進め、④を考察するための方法論としての文化人類学的アプローチを勉強した。その成果は、[研究実績の概要]の通りである。とりわけ、年度の後半はジュネーブに留学することで、②、③に関連して国連システムにおける信教の自由の保護の調査を行い、①、④に関連して国際法を文化人類学的に紐解く教授の見地を参照している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず、前記の文化人類学視点からの多文化主義の研究をより進めることが必要である。文化人類学的な視点には、事象における歴史性、とりわけ、第二次大戦後の文脈における植民地および脱植民地化を果たした国家に埋め込まれている植民地の遺産や、「他者」として周辺化された人々に光を当てるといったことが挙げられる。こうした見方を法に持ち込むとすれば、旧植民地の国内法に旧宗主国のイデオロギーが埋没している点や、西洋的思想が国際法に強大な影響力を持ち浸透している点を指摘するということになる。これらの視点は、上記①の人権の普遍性および相対性の議論に関連するところである。また、文化人類学における一大論点である多文化主義は、信教の自由の問題の背景として挙げられ、同問題の研究には不可欠の概念であるため、現在フィンランドやカナダでの多文化主義研究をフォローしているところである。
これに加え、上記に示した①~④の論点のうち、特に博士論文の構成の再考を迫りうる①の人権の普遍性および相対性に関する議論をフォローおよび整理することが重要な課題である。また、②、③の論点についても、米州地域およびアフリカ地域の条約体制を調査することと、博士論文に関係ある限りの国家実行を調査することが必要である。最後に、④については、信教の自由が問題となる場面の「公共性」と国家が有する裁量との間の相関関係、「多元主義」「寛容」「広い心」という原則および「アイデンティティ」についての哲学的・社会学的研究という課題が残っている。
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Research Products
(2 results)