2016 Fiscal Year Annual Research Report
ビフェニル型構造の定量的解析によるリグニン分岐構造の研究
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15J08385
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平山 晴加 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 5-5結合 / リグニン生合成 / H核/G核比 / 圧縮あて材 / 針葉樹 / ビフェニル型構造 / 縮合型構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、リグニン高分子の形状を植物がどのように制御しているのかを知る足がかりの一つとして、リグニンの枝分かれの候補構造であるビフェニル構造について、(1)定量的解析手法を確立し、その手法を用いて(2)ビフェニル生成物量と芳香核構造の構成比との関係性を調べることである。前年度までに、GG型のビフェニル構造について(1)、(2)を明らかにしたが、本年度は、HG型のビフェニル構造について調べるため、以下の実験を行った。 1.試料の選定:H核/G核比とビフェニル生成物量の関係性を調べるには、H核の含有量が大きく、かつH核/G核比の差異の大きい試料が望ましいと考えた。そこで、H核含量の指標であるメトキシ基含量をもとに、スギおよびヒマラヤスギの圧縮あて材(CW)を試料として選定した。 2.組織観察:1の木材を光学顕微鏡で観察したところ、偏心成長した部位は、対向部と比べ、細胞壁が丸くフロログルシンー塩酸呈色反応で濃く染まるというCWの特徴を示した。 3.木粉の調製および抽出:1の木材を、髄を中心として60度おきに6つの区画に分け、各区画の同一年輪から木粉を調製した後、エタノール-ベンゼン(1:2、v/v)で8時間ソックスレー抽出した。 4.クラーソンリグニンの定量:3の脱脂木粉のクラーソンリグニン含量を調べたところ、CWのリグニン含量は、対向部(OW)よりも、スギで7.5 %、ヒマラヤスギで6.1 %高かった。ここで得た値は、後にビフェニル生成物量を算出する際に用いる予定である。 5.メトキシ基含量の定量:4のクラーソンリグニン残渣のメトキシ基含量を調べたところ、CWはOWよりも、スギで13 %、ヒマラヤスギで16.4 %小さく、過去の報告と同様にH核を多く含むことが示された。これらの値は、今後、H核/G核比の指標として用いる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、H核/G核比とビフェニル生成物量との関係性を調べるのに適した木材の選定、および脱脂木粉の調製を行った。さらに、調製した脱脂木粉のクラーソンリグニン含量およびメトキシ基含量を調べた。 木材の選定について、28年度より前に入手していた圧縮あて材(CW)には、先の関係性を調べるのに、十分量のH核が含まれ、かつCWと対向部(OW)のH核/G核比の差異も十分に大きいことが、メトキシ基含量から推測されたことから、木材を再度採取する必要がなくなり、想定よりも早く目的の試料を入手することができた。 一方、クラーソンリグニン含量を調べる際には、クラーソン法に供する木粉の量を検討する必要が生じたため、やや時間を要した。クラーソンリグニン含量を調べるには、一般的に約1 gの脱脂木粉が必要となるが、今回、年輪幅の小さいOWからは木粉が約3 gしか得られなかった。木粉はその他の分析にも用いるため、クラーソン法に供する木粉の量を減らす必要性があると考えた。そこで、木粉量とクラーソンリグニン含量との関係性を調べたところ、本研究の目的に対しては、300 mg使用時と1 g使用時でリグニン含量に大きな差異がなかったこと、および300 mgでも十分な再現性が得られることが確認されたことから、木粉の量を300 mgに減らした。 全体としては、計画通りに進捗することができたと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、HG型のビフェニル構造を有するニトロベンゼン酸化生成物(HG型ビフェニル生成物)に由来するGCピークを同定すべく、まず、HG型ビフェニル生成物の合成を行う予定である。HG型ビフェニル生成物は新規の化合物であり、合成に時間を要する可能性があるが、すでに合成されたことのある3 -methoxy-5,5'-dimethyl-biphenyl-2,2'-diol をニトロベンゼン酸化法に供することで合成したいと考えている。HG型ビフェニル生成物は、GG型ビフェニル生成物と同様に通常の精製に用いる有機溶媒に難溶であることが予測されるため、同酸化生成物からHG型ビフェニル生成物を分離する前にアセチル化を行い、アセチル化物として単離後、脱アセチル化して目的物を得る予定である。 HG型ビフェニル生成物の合成に成功次第、これを標品として、木粉のニトロベンゼン酸化生成物の中からHG型ビフェニル生成物に由来するGCピークを同定する予定である。また、HG型のビフェニル生成物の収量が最大となるには、GG型の場合よりも長い反応時間を要する可能性のあることが、HH型とGG型のフェニルクマランモデル化合物の実験から予測されたため、HG型ビフェニル構造の分析に適した条件を改めて検討する予定である。 HG型ビフェニル構造の解析法が定まり次第、スギまたはヒマラヤスギの圧縮あて材から調製した脱脂木粉にこれを適用し、本研究の目的であるH核/G核比とGG型もしくはHG型ビフェニル生成物量との関係性を調べたいと考えている。
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