2016 Fiscal Year Annual Research Report
新規in vivo胆管遺伝子導入法を用いた胆管の樹状構造解析
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15J08420
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡田 甫 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 細胆管反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
肝臓は代謝等から生じる毒物の危険に常に晒されるが、高い再生能により、その機能を維持する。肝臓内には上皮管腔組織である胆管が樹状に張り巡らされており、胆管上皮細胞が重篤な肝障害時には増殖し胆管の樹状構造が大きく変化する(細胆管反応)。胆管には肝実質細胞の前駆細胞が存在するとされ、細胆管反応は肝臓の再生・恒常性維持に重要な役割を担っている。細胆管反応の制御が崩れることは肝癌、胆管癌の一つの原因だと考えられており、制御機構の理解は臨床的にも重要な命題である。細胆管反応の制御機構に関しては胆管周囲の細胞集団の種類およびその細胞集団からのシグナルについては報告があるものの、胆管が樹上構造をを形成する細胞内シグナルに関しては未だ多くの不明な点が残されている。本研究では、新たに構築したin vivo遺伝子操作系を用いて胆管上皮の細胞内シグナルをマウス生体内で操作することで、胆管の樹上構造変化の制御メカニズムを明らかにすることを目的としている。その一端として、胆管上皮細胞の外側から作用して細胆管反応を誘導するFGF7シグナルの下流、特に転写因子KLF5の機能解析から、胆管の増殖・枝分かれを制御するメカニズムを解明する。 研究者は、申請時に同定していた細胆管反応制御転写因子KLF5の機能解析を、肝臓上皮細胞特異的ノックアウトマウス(以下KLF5 LKOマウス)を用いて解析を行った。前年までにKLF5 LKOマウスでは、肝障害時に細胆管反応が抑制されることで、障害の増悪および障害時における生存率が低下していることを見出していたが、当該年度では、単離分取困難であったKLF5 LKOマウスから胆管上皮細胞を分取することに成功し、遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、KLF5が既存のシグナル経路にない新規シグナル経路を制御することを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究者は、申請時に同定していた細胆管反応制御転写因子KLF5の機能解析を、肝臓上皮細胞特異的ノックアウトマウス(以下KLF5 LKOマウス)を用いて解析を行った。前年までにKLF5 LKOマウスでは、肝障害時に細胆管反応が抑制されることで、障害の増悪および障害時における生存率が低下していることを見出していた。今年度の研究においては以下の点を中心に行った。 ①KLF5 LKOマウスの肝障害肝からの胆管上皮細胞の単離分取に成功した 前年度までKLF5 LKOマウスでは胆管上皮細胞の単離分取が困難であった。その原因として野生型マウスに比べ胆管上皮細胞がより強く障害を受けていたためだと考えられる。今年度は肝障害の時系列を追って、単離分取に適した時期を検討し、肝障害のより初期の時点で細胞を単離分取することに成功した。 ②KLF5 LKOマウスの胆管上皮細胞における網羅的遺伝子発現解析 ①で単離分取した細胞の遺伝子発現解析を、野生型マウスに同じ肝障害を与えたものをコントロールとして、RNA-seqにより網羅的におこなった。得られたデータを用いてEnrichment解析およびPathway解析を行った。その結果、前年度までにin vitroの胆管培養系で報告していたものとは異なる細胞増殖関連の遺伝子が多数変動していることが明らかになった。このことは、細胞増殖マーカーKi67をマウス肝臓切片にて染色し、表現型としても確認している。今回のRNA-seqでは細胆管反応に関わる既存のシグナル経路(NotchやWntシグナル等)には殆ど影響が認められなかった。このことはKLF5は既存のシグナル経路にない新規シグナル経路を制御することを示唆している。
ここまでの結果をまとめて、現在論文投稿準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
③肝障害時における胆管上皮細胞の新規細胞外基質の同定 ②のRNA-seqにより、KLF5 LKOマウスで有意に発現が低下している遺伝子のうち、上位にこれまでに胆管上皮細胞および肝臓で殆ど報告のないラミニンのサブタイプが含まれていた。現在、このラミニンが正常肝では胆管の一部にしか発現しないが、肝障害を与えると発現する胆管上皮細胞が増加することを明らかにしている。次年度は今回同定したラミニンが細胆管反応に関与する可能性を検討するため、機能解析を行う。
④シングル・セルRNA-seqを用いた胆管の異種性の検討 当研究室では、胆管を構成する胆管上皮細胞に増殖能に基づく異種性(heterogeneity)があることを報告している(Kamimoto, et al. eLife 2016)。当研究においても、障害に応答して③で同定したラミニンを分泌する細胞が存在・出現することを示唆している。複雑な樹上構造のリモデリングである細胆管反応のメカニズムを理解するためには、胆管全体の遺伝子発現データだけでは不十分である。正常肝と障害肝から分取した細胞を用いてシングル・セルRNA-seqを行なうことで単一細胞レベルから細胆管反応のメカニズムを解き明かす。現在単一細胞のcDNAライブラリーの調整の条件検討を行っており、次年度に単一細胞の遺伝子発現を解析する予定である。
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Research Products
(2 results)