2015 Fiscal Year Annual Research Report
芸術・文化政策の便益と評価に関する理論的・実証的研究
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15J08466
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
林 勇貴 関西学院大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 準公共財 / 芸術・文化 / 間接便益 / 労働生産性 / ヘドニック・アプローチ / 応用一般均衡 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
地方自治体が供給する財・サービスの多くは、利用者への直接便益と非利用者への間接便益(外部性)を併せ持つ準公共財である。しかし、準公共財から発生する多様な便益の評価が困難であることから、公共部門の関与のあり方を検討するための科学的な判断材料が欠如している。したがって、本研究は近年、地域経済の活性化やまちづくりとして注目されている芸術・文化を準公共財として取り上げた。 これまでの研究から芸術・文化には、利用者の直接便益や居住環境の改善による周辺住民への間接便益が存在することが証明されたが、芸術・文化が労働生産性を向上させ、企業の活動環境面に間接便益を与える可能性があることから、当該年度は芸術・文化の「企業活動の環境改善効果」について理論的・実証的に検証した。その結果、企業活動環境改善に対して、特別展や事業などのソフト面の充実や民間の芸術・文化活動へのサポートの有効性などが示され、芸術・文化は地域経済のポテンシャルを高めることが分かった。 また、当該年度は、芸術・文化の家計や企業への影響が各経済主体に相互に影響を及ぼしながら、最終的に実体経済や住民の厚生水準にどのような影響を及ぼすかについて各経済主体の相互依存関係を考慮した応用一般均衡モデルを開発した。さらに効果分析として芸術・文化の質、量を変更した場合の政策シミュレーション分析を行った。その結果、ソフト面の資源の投入は第2次産業や第3次産業の労働生産性を上昇させ、住民の厚生水準を引き上げるとともに、居住環境の改善によって厚生水準を引き上げることが分かった。 以上のように、非市場価値を含めた便益を客観的に評価することは、科学的基準の開発といった学術面や芸術・文化のあり方の議論を成立させるための政策面においても重要であり、本研究の考え方や手法を多くの準公共財に適用することで、準公共財による政策インプリケーションへの足がかりとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
芸術・文化の差が引き起こす生産性の違いに着目した研究は学会で報告し、得られた結果は査読付き学術誌に掲載された。また、これまでの研究である仮想評価法を用いた芸術・文化の直接便益の計測に関する研究は、さらに改善した結果、査読付き学術誌に掲載された。さらに、応用一般均衡モデルを用いた芸術・文化の効果分析は学会で報告した。 また「交差する地域文化とイノベーション」をテーマとした公開シンポジウムで、これまでの研究成果を用いて文化に対する経済学的評価方法について講演をおこなった他、本成果についてワークショップや研究会等で報告をかさねた。 以上のように、当該年度の研究計画であった芸術・文化の便益評価に関する研究は、無事進展でき、それを基盤研究とする政策研究では、まだ改善する必要があるが基本モデルを構築し、理論的・実証的に検証できたことから、おおむね順調であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、家計、企業、不動産業の相互依存関係を考慮した応用一般均衡モデルを構築し、芸術・文化が家計の厚生水準や地域経済に与える影響を推定したが、モデルに政府部門を組み込むことで、各経済主体から徴収する税金などの財源調達のあり方について、より具体的な検証が可能となる。そのためには、まず芸術・文化と財政(財源)に関する研究が必要である。 また、これまでの研究から推定された直接便益、間接便益をもとに、複数アウトプットを考慮して包絡分析(DEA)法を行うことで、施設ごとの効率性の違いを検証する。その際、施設の地理的条件や人口密度といった自治体の裁量が及ばない非裁量要因をTobit分析によって除去し、技術的効率性の決定要因を分析する。
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Research Products
(4 results)