2015 Fiscal Year Annual Research Report
ユーゴスラヴィア王国における極右政治組織ウスタシャの民族イデオロギーと政治的暴力
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15J08473
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
門間 卓也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | ファシズム / 知識人 / 大戦間期 / プロパガンダ / ユーゴスラヴィア / クロアチア / 民族問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、クロアチアの極右民族主義政治組織であるウスタシャの政治活動、所謂「ウスタシャ運動」の支持基盤の一つとなった民族派知識人の役割に焦点を当てて研究を進めた。中でも大戦間期におけるウスタシャ運動に親和的な態度を見せていたクロアア中央協会会頭のフィリプ・ルカスの政治的言説に注目した。その結果、地理学者でもあるルカスは元来東欧地域におけるクロアチア民族の政治的立場に関して「東西」にまたがる両義性に価値を見出だしていたが、1930年代後半にウスタシャ運動がより急進化するにつれ、その主張はむしろ「東」「西」の文化的差異を強調しながら反セルビア民族的色彩を強めていったことが分かった。 これにより、少なくとも大戦間期にウスタシャ運動を通じて発揮されたイデオロギーが、独伊における「ファシズム思想」の影響の産物というよりも、伝統的なクロアチア民族主義の文脈に連なるものであったことが指摘できる。同時に、民族派知識人がウスタシャ運動を支持した背景として、ウスタシャのイデオローグがクロアチア・ナショナリズムの伝統的なレトリックをプロパガンダとして積極的に用いていた可能性も示した。これはクロアチア民族全体の右傾化に知識人が果たした役割と、民族社会内部でウスタシャ運動が占めた位置を表すものである。 以上の内容に基づく研究を進めるにあたり、6月から7月にかけてクロアチア及びボスニア・ヘルツェゴヴィナに渡航し、現地の文書館で研究成果に係る史料を収集した。またその研究内容の一部を8月に開催された第9回国際中欧東欧研究協議会幕張世界大会で報告し、学会誌『スラヴ学論集』への投稿論文としてまとめた(同誌第19号(2016年)掲載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来トップ・ダウン式に語られがちであったウスタシャ運動のイデオロギー構築に関し、平成27年度は主に知識人層の果たした役割について明らかにすることが出来た。特に大戦間期においてクロアチア民族の最大の文化組織であったクロアチア中央協会とウスタシャの関係性に言及したことで、民族社会内部で政治的急進化がなされた構造を示すことが可能になったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はウスタシャ運動のもう一つの支持基盤となった「青年層」の役割に焦点を当てた研究を進めていく予定である。またその際、ユーゴ王国の崩壊及びクロアチア独立国の建設後に「青年層」が更なる急進化を見せたと言われているため、大戦間期以降にも分析の照準を伸ばすこと、そして独伊や他の東欧諸国の体制と比較して、より詳細にウスタシャによる「動員」のメカニズムを明らかにすることを目指したい。
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Research Products
(7 results)