2015 Fiscal Year Annual Research Report
電子物性と動的プロトン物性の協奏した機能性物質の開拓
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15J08529
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 順哉 東京大学, 物性研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 有機伝導体 / 水素結合 / テトラチアフルバレン / カテコール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子物性と動的プロトン物性が協奏した機能性物質の開拓を目的として、TTF(テトラチアフルバレン)にカテコールが直接縮環したCat-TTF誘導体を基盤とした有機伝導体の合成と物性測定を行った。研究は、動的な水素結合の挙動を介して相転移挙動を示す有機物質 [H3(Cat-EDO-TTF)2]BF4 に関する研究と水素結合鎖-電子連動型の機能性物質の開発研究を並行して行った。 (1) [H3(Cat-EDO-TTF)2]BF4 の動的な水素結合の挙動と相転移の関係を調査することを目的として、水素結合部の重水素化を行った。その結果、転移温度の上昇と活性化エネルギーの低下が観測され、水素結合部と電子系が相関していることが示唆された。さらに、アニオン置換体として新規有機伝導体 [H3(Cat-EDO-TTF)2]X (X = ClO4, PF6, AsF6) の開発に成功し、物性測定を行った。その結果、水素結合の動的性質が結晶中の化学圧力効果と関連していることが示唆された。 (2) 水素結合鎖の動的挙動と電子系が連動した電子物性の開拓を行うために、多方向に水素結合を形成可能な電子ドナー分子として、TTFの両端にカテコールを縮環させたドナー分子を設計し、合成に成功した。このドナー分子を用いて伝導体の作製を行ったところ、3種類の電荷移動塩 ( ClO4塩, ReO4塩, CF3SO3塩) 及びアニオンを含まない純有機伝導体を新規に合成することに成功した。X線構造解析から、これらの伝導体結晶中では、水素結合によってドナー分子が繋がれたネットワーク構造を形成していた。つまり、新規のドナー分子が「水素結合鎖-電子連動型」の新奇物性を構築する重要な物質であるということが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、水素結合部の動的挙動と電子状態が相関した相転移を起こす有機伝導体の重水素化体及び対アニオン置換体の合成を行い、物性挙動の違いを比較した。その結果、水素結合の動的挙動にドナーの分子間相互作用が影響しているという知見を得た。また、これと並行し、水素結合鎖の動的物性と電子状態が相関した機能性物質の開発を目的として、TTFの両端にカテコールを縮環させた電子ドナー分子とそれを基盤とした伝導体の合成に成功した。これらの結果は当該年度の実施計画に沿っており、本研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目に引き続き、TTFの両端にカテコールを縮環させた電子ドナー分子を基盤とした伝導体を合成し、水素結合鎖の動的挙動と電子物性が連動した機能性物質の開拓を目指す。水素結合鎖中のプロトンが動的に機能するためには、脱プロトン化された水素結合で繋がれている必要があると考えられる。そのため、伝導体合成時の脱プロトン化の条件の検討を行う。また、対アニオンへの水素結合鎖の導入も検討する。
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Research Products
(3 results)