2015 Fiscal Year Annual Research Report
超低コスト熱電変換素子を実現する三次元ナノアーキテクチャの創製
Project/Area Number |
15J08556
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
荒木 慎司 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | レーザープロセス / 位相シフトマスク / 三次元ナノ構造体 / 熱電変換素子 / 熱伝導率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,レーザープロセスにより三次元ナノ構造体を作製し,それをテンプレートとして利用することで低コストかつ高効率熱電変換素子を実現することができる. 本年度は,本研究で用いるレーザーシステムの設計及び構築を行い,さらに位相シフトマスクの設計及び作製を行った.本研究で用いるナノ構造体作製プロセスは,レーザー光が位相シフトマスクを介することで発現する三次元的な光照射を利用するため,位相シフトマスクは非常に重要な役割を果たす.また,本研究は熱電変換素子の熱伝導率を低減させることにより熱電性能の向上を目指しているが,使用する位相シフトマスクの設計値を変更するだけで形成されるナノ構造体の形状が大きく変化させることができる. 今回実際に,独自設計したレーザーシステム及び位相シフトマスクを用いることで,レーザーが照射された部分のみが現像で溶解するポジ型の感光性樹脂を使用し,三次元ナノ構造体の作製に成功した.本プロセスでは,感光性樹脂に対するレーザー照射条件や,現像処理条件などによって形成される三次元ナノ構造体が崩れてしまうことがあるが,全工程の最適な条件を細かく検討することで,三次元ナノ構造体作製まで辿り着いた.さらに,得られたナノ構造体は光学シミュレータで理論的に解析した結果ともよく一致することを確認できた.このことから,今回構築したレーザーシステム及び位相シフトマスクを使用することで,実験的にも理論的にも三次元ナノ構造体が形成できることが示された. 今後は,今回形成したナノ構造体を有する感光性樹脂をテンプレートとして熱電材料を充填し,その後感光性樹脂のみを除去することで,熱電材料のナノ構造体を作製し,種々の熱電特性を評価する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究内容は,位相シフトマスクを用いたレーザープロセスを用いて三次元ナノ構造体を簡便に作製することにより,低コストかつ高機能な熱電変換素子の実現を目指している.本プロセスで重要となるのがレーザーシステム及び位相シフトマスクであるが,これらは当初の予定どおり順調に設計及び作製を行ってこれていた.しかしながら,実際に三次元ナノ構造体を作製する際には使用する感光性樹脂の種類,感光性樹脂に対するレーザーの照射条件,レーザー照射後の現像処理の条件などの全工程の検討が必要であり,その部分において多大な時間を費やしてしまった. まず,使用する感光性樹脂の種類については,レーザー照射部分が現像処理で溶解するポジ型の感光性樹脂と,反対に未照射部分が溶解するネガ型の感光性樹脂の両方を使用して本プロセスを検討している.両者一長一短の性質を持っているが,それぞれの感光性樹脂に対してレーザーの照射や現像処理の条件を検討していたことから,当初の予定よりはやや遅れている. 本来当初は,今回形成した三次元ナノ構造体を有する感光性樹脂に対して熱電材料の充填を行っている予定であったが,実際は三次元ナノ構造体が形成できたところまでにとどまっている.しかしながら,現在他のプロセスで作製した三次元ナノ構造体に対して熱電材料の充填条件の検討を始めており,レーザープロセスで作製したナノ構造体にも同様の条件をすぐに適用できるように検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策としては,まず今回確立した位相シフトマスクを用いたレーザープロセスにおいて,位相シフトマスクの設計値を変更することにより異なる構造サイズを有する感光性樹脂をそれぞれ作製する.そして,それらのサンプルに対して同時に熱電材料を充填することにより,各々のサンプルが有する異なる構造サイズ由来の熱伝導率の評価を行う予定である.本研究で注目している熱伝導率は構造サイズ由来の影響を評価することが困難であることから,この方策は有効であるように考えられる.また,熱電変換素子の性能を評価するパラメータは熱伝導率だけではなく,ゼーベック係数及び導電率も非常に重要であるため,各サンプルに対してそれぞれ評価を行っていく.これらの熱電性能の評価は,本研究科の共通機器を使用することで可能であると考えられる. 本研究で使用している位相シフトマスクを用いたレーザープロセスは,従来の三次元ナノ構造体作製手法の一つである自己組織化プロセスよりも簡便かつ,形状の設計自由度が高いプロセスである.そのため,本レーザープロセスの有用性及び優位性を示すためにも,本プロセスで作製したサンプルに対してのみ熱電性能を評価をするだけでなく,従来プロセスで作製したサンプルに対しても同様の評価を行う予定である. 本研究では,実験のみならずシミュレータを用いた理論解析も行い,得られた結果の考察をより定量的に評価する.近年,熱電材料に対してナノ構造体を導入することで熱伝導率の低減が実現された例は多く報告されているが,熱伝導率低減に向けた構造体サイズに関する指針はない状態である.本研究では,実験的及び理論的に研究を進めていくことで,その指針を明確に示すことを目標としている.
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