2016 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子の配列多様性に基づく新規メタゲノムデータ解析手法の確立
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15J08604
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 聡史 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | メタゲノム / PacBio / 水圏微生物 / ゲノム / 配列多様性 / バイオインフォマティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、環境微生物のDNA配列を網羅的に取得するメタゲノム解析が広く行われるようになっている。一般的なメタゲノム解析では「種分類による群集構造解析」と「機能遺伝子組成比解析」の2つが主な解析内容であるが、このような解析では、例えば遺伝子の順序が広く集団中に保存されているのかどうか、あるいは任意の遺伝子が単一の種由来なのか複数の種間で広く共有されているのか等を解析することが難しく、環境微生物生態の全容を議論するには不十分である。本研究では、遺伝子順序や遺伝子コーディング領域の配列多様性を情報量として利用した、メタゲノムショットガンリードデータの新規解析手法の開発、及び実データへの適用から新規の微生物生態学的な知見を発見することを目標としている。 提案手法を計算機上で処理するためのパイプラインの大枠が実装済みであり、特徴的なゲノム領域や遺伝子の検出手法の開発と実装を引き続き行っている。また平行して、シミュレーションデータを用いて最適なパラメータ選択や実装の洗練化を行っているところである。 同時に、本手法を適用するための実データを取得するため、環境微生物サンプリングとゲノムシーケンシングを平行して行っている。これまでに予定していた温泉土壌由来の細菌叢からのDNA抽出については、実験的に困難であることが判明したため、サンプルを淡水環境由来のものに変更した。本年度において微生物のサンプリングはすでに完了しており、現在ゲノムDNAの効率的な抽出実験プロトコルを探索するための準備実験を行っている。次年度では実際にショットガンシーケンスを行い、配列解析を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、遺伝子順序をグラフ構造に落としこむ一連の処理プロセスや、遺伝子コーディング領域の配列アライメントを行うプロセスに関しては実装を終えており、パイプラインの大枠の開発は概ね完了している。現在、得られた結果から興味深いゲノム領域や遺伝子を 検出する手法の開発と実装を行っており、また平行して、より最適なパラメータ選択や実装の洗練化を行うため、複数のシミュレーシ ョンデータを用いた性能評価を行っている。 環境からの微生物サンプリングとシーケンスによる実データの取得であるが、現在PacBioによるシーケンスを行うための準備を進めている。提案手法では、微生物種の多様性が高い環境に由来するショットガンメタゲノムシーケンスデータを用いることは解析的に困難であることが予想されるため、本研究課題では微生物種の多様性が低い環境サンプルを使用する予定である。前年度までの予定では環境サンプルとして、高い温度(50~90℃)と低いpH(2~1)という特徴を持つ極限環境の一種である、群馬県草津温泉の源泉域の沈殿土壌を用いることを考えていたが、実際にサンプリングとDNA抽出実験を行ったところ、抽出DNA量が非常に少なく、シーケンスに回せるだけの十分量のDNAを得ることが困難であることが判明したため、環境サンプルの変更を行う必要が生じた。様々な環境サンプルを検討した結果、現在は淡水環境の微生物叢を解析することを考えており、具体的には琵琶湖の表層水・深層水をフィルター濾過したサンプルを用いることを考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
琵琶湖のような幾つかの深い深度を持つ湖は、夏季は表層水温が高くなり深層水は低くなることで水温躍層が生じ、鉛直方向の循環が起きずに安定的に表層・深層が分離する。逆に冬季において、大気の気温の低下に伴い湖水表面の温度が低下する事により、鉛直方向の循環が生じることで全循環がおこり、湖水全体が均一な温度になることが知られている。このような水温躍層を形成する湖は、層形成期間中の表層水・深層水間で微生物種の群集構造が大きく異なり、全循環の際に均一に混ざることが知られているが、ゲノムレベルでの多様性がどの程度存在しているのかは調べられておらず、本提案手法を適用することによってこの問題にアプローチすることが可能であると考えている。サンプリングは既に終了しており、現在、単離株の培養液や擬似的な湖水サンプルを用いて効率的なゲノムDNA抽出の実験プロトコルを探索中である。次年度では、実サンプルを用いてDNA抽出を行い、実際にPacBioによるショットガンシーケンスを行う予定である。また、得られたシーケンスデータを上記の提案手法を用いて解析し、結果を評価する予定である。
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Research Products
(9 results)