2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J08667
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
末岡 拓馬 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ヒストン / エピジェネティクス / タンパク質化学合成 / 翻訳後修飾 / タンパク質間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はヒストンの中でも動態が注目されているH2AとH2Bに焦点を絞り、2つの研究を行った。以下に詳細を記す。 H2A-H2B二量体はヌクレオソーム構造を形成する際に重要な複合体であり、細胞内でペアとして機能している。この二量体が翻訳後修飾によって影響を受けるのか探索を行い、その中でもH2Aの57番目チロシンのリン酸化に着目した。ペプチド固相合成法とNative chemical ligation (NCL) を組み合わせてリン酸化H2Aを化学的に合成し、これを用いてH2A-H2B二量体ならびにヌクレオソームを再構成した。サーマルシフトアッセイにより安定性を評価したところ、リン酸化によってH2A-H2B二量体、ヌクレオソーム共により低い温度で変性することが明らかになった。本年度の結果により、Y57リン酸化がヒストン間相互作用を制御する修飾であることが示唆された。 一方で、H2AとH2Bが二量体を形成する様子の可視化を試みた。蛍光色素間のエネルギー移動であるFRETは、距離に依存してその効率が変化するため、構造変化の指標として用いられる。今回はこれをH2A-H2B二量体の形成検出に適用することとした。結晶構造から2種類の蛍光色素を導入する箇所をデザインし、ペプチド固相合成法、NCL、2種類の直交的な反応を組み合わせることでH2Bの合成を完了した。そののちに、H2A-H2B二量体の再構成を行い、FRET効率の検証を行った。H2B単体の場合と比較して二量体の時にFRETが起きることが明らかになり、本実験の系が有効であることが確かめられた。 以上の結果により、これまでアプローチの限られていたH2AとH2Bのダイナミクス研究に対して、化学合成を利用した手法が強力なツールであることが示された。翻訳後修飾を自在に導入し、試験管内・細胞内での統合的な解析を行うことが可能となってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題は化学合成ヒストンタンパク質を用いた試験管内でのアッセイを通して基盤を固め、生細胞内でのヒストンの挙動を明らかにする研究へと発展させていくものである。試験管内・生細胞内いずれのアッセイも手法の確立が大きな問題であったが、27年度と本年度までの研究でそれが大きく克服され、新たな知見を得る段階へと入っている。特に、チロシンのリン酸化がヒストン複合体の構造を制御する因子として見出されたことは、本研究における大きな進展であった。また、イメージングを指向した研究においても、最終年度に向けて様々な実験に適用可能な蛍光色素ヒストンの合成がなされた。1種類の色素による顕微鏡観察と2種類の色素を用いた観察とを組み合わせ、H2AならびにH2Bの動きを詳細に解析していく予定である。 本年度末には前述の研究結果を原著論文として投稿する準備がほぼ完了した。申請書の研究計画と比較して、研究の進捗は計画通りか計画を上回るペースであり、今後も本研究を幅広い視点で推進していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、人工ヒストンを用いた細胞内イメージングを主要なトピックとして実験を進めていきたい。28年度から引き続きの内容として、試験管内で有用性が確認されたFRET可能なH2Bを細胞内に導入し、FRET効率の変化を検証する予定である。導入法としては、これまで取り組んできたビーズローディング法やマイクロインジェクション法を考えている。加えて、他研究室との共同研究によって、より感度の高い顕微鏡観察が可能となりつつある。これまで常に二量体として機能すると考えられてきたH2AとH2Bがどの程度単量体として存在しているのかなど、細胞内での新しい発見につながることを期待している。 ヒストンH2Aには多様なバリアントが存在し、それらはヒストンのダイナミクスを語るうえで欠かせない存在である。最終年度の研究では、バリアントから成る二量体の挙動がどのように変化するのかを追跡するところまで踏み込んでいければと考えている。
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Research Products
(3 results)