2015 Fiscal Year Annual Research Report
発光タンパク質ルシフェラーゼを利用した細胞間シグナル伝達の定量的解析法の開発
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15J08707
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河村 玄気 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 光制御 / シグナル伝達 / ルシフェラーゼ / 機能性分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究題目では、発光タンパク質ルシフェラーゼを用いた光制御技術の開発を行った。本研究の課題は、「光制御系のルシフェラーゼをもちいた発光評価法の開発」、および、「ルシフェラーゼ発光による光制御法の開発」の二軸に大きく分けられる。第一年目である平成27年度は後者の「ルシフェラーゼ発光による光制御法の開発」に主眼を置き実験を行った。 まず、ルシフェラーゼの発光強度が光制御技術に用いられる光受容タンパク質の構造変化を引き起こすことに十分かを調べた。この目的のため、既知のルシフェラーゼの中で最も発光強度が高いNLuc を使用した。直接光受容タンパク質の構造変化が起きることを調べることは困難であるため、すでに確立している光制御系にNLuc を組み込んだプローブを構築し、光制御能の評価を行った。具体的には、光制御プローブに融合する形でNLucを挿入したプローブを作製し、発光による光制御プローブの活性化能を外部光照射の場合の活性化能と比較した。 結果、NLuc の発光では外部光照射と比較して約7割程度の光制御能が達成された。また発光による光制御能を詳細に検討するために、「ルシフェラーゼが光受容タンパク質と近接している」条件が必須かどうかを確認した。具体的には、光制御プローブとNLuc を分離して発現させた系とNLuc と光制御プローブを融合して発現した系とを比較した。結果、光制御プローブ とNLuc が分離している場合では、融合型と比較して約1割程度の光制御能が達成された。このことは、分離型ではルシフェラーゼ発光による光制御が起きにくいことを示している。 以上の結果から、ルシフェラーゼと光受容タンパク質が近接している条件でルシフェラーゼ発光による光制御が可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、発光タンパク質ルシフェラーゼを使用した、生物発光による新規光制御技術の開発を目標とした。研究第一年目となる平成27年度はルシフェラーゼの発光による光制御プローブの活性化の誘導を実現することに成功した。具体的には、ルシフェラーゼの発光により光制御系プローブの活性化を引き起こすことが可能であり、かつ、ルシフェラーゼと光制御系プローブとして使用される光受容タンパク質がプローブ上で近接しているという条件が、効果的なルシフェラーゼ発光による光制御に必要だという結果が得られた。 ルシフェラーゼ発光による光制御が可能であるという結果は、研究課題の目的としている生物発光による新規光制御技術の開発に向けて重要な礎となる。また、ルシフェラーゼと光受容タンパク質が近接している条件が望ましいという結果は、ルシフェラーゼを使用した光制御系の開発におけるプローブ設計の有益な知見となる。 その一方で、発光による光制御系プローブの活性化能が予想よりも低かったため、光制御系プローブの活性化能を通常の光制御系でもちいられる外部光照射の場合と同程度まで引き上げることが今後の課題となる。 成果としては目標としていたルシフェラーゼ発光による光制御系の活性化を達成し、プローブ設計における知見が得られたことが挙げられるが、今後の改善点としてルシフェラーゼ発光による光制御系の活性化能をより上昇させることが必要とされるため、総合的に、おおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、光制御プローブにより転写・翻訳を活性化させて発現したルシフェラーゼの発光によって光制御プローブをさらに活性化させるというフィードバック構造を構築することにしていた。研究第一年目で得られた結果を踏まえると、光制御プローブと融合していないルシフェラーゼの発現量増加のみで光制御プローブを活性化させることは困難であると考えられる。また、外部光照射の場合と比較すると、発光による光制御プローブの活性化能は劣るため、より効率的なプローブの作製が課題であると考えた。 そこで、当初の計画を見直し、発現したルシフェラーゼが効率的に光制御プローブに近接する系を構築する。また、光受容タンパク質をより光感受性が高いものに変更し、より光感度の高い光制御プローブの開発を行う。 一方、ルシフェラーゼ発光による光制御法の新たな応用例として、生物個体深部での光制御法の開発を検討することにした。個体深部では通常の光制御で用いられる外部光照射の透過率が悪いため、現在までに光制御に成功した例は少なく、かつ、非侵襲的に行った例は限られている。原理的にはルシフェラーゼの基質を投与することでルシフェラーゼ発光による光制御は個体深部でも可能である。そこで、個体中で特に外部光の透過率が悪い肝臓を標的とし、肝臓中でルシフェラーゼ発光による光制御を行うことを検討する。 今後はこのアプローチが実現可能か実験的に確かめるとともに、当初の計画のもう一つの軸である、「ルシフェラーゼによる光制御系の定量評価法の開発」に取り組む。
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Research Products
(4 results)