2016 Fiscal Year Annual Research Report
発光タンパク質ルシフェラーゼを利用した細胞間シグナル伝達の定量的解析法の開発
Project/Area Number |
15J08707
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河村 玄気 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 光制御 / 発光 / ルシフェラーゼ / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では, 細胞間のシグナル伝達を人為的に操作可能にする光制御法の効果を一細胞レベルで定量する技術を開発する. 細胞間シグナル伝達の研究における課題の一つとして, 時空間的なシグナル伝播の動態を解析することがある. しかし, シグナルを空間特異的に活性化しその影響を分析する手法は確立されていない. 光制御法は高い時空間分解能を有するが, 制御効果の定量が困難である. そこで発光タンパク質ルシフェラーゼをもちいた検出プローブを開発し, 空間的なシグナル分布の定量的解析を行った. 開発した発光プローブによりシグナルの活性を顕微鏡下で観察したところ, 一細胞レベルで数日間にわたる経時的変化が測定できた. これは細胞間シグナル伝播を解析するには十分であり, 時空間的な動態の解析が可能になると期待される. また光制御に用いる光により検出系の機能が阻害されないこと, および検出系の発光により光制御系が駆動しないことを確認した. 以上の結果より, 光制御系と開発した発光検出系を組み合わせることが可能であり, 光により空間的に制御されたシグナルがどのように細胞間で伝達されるのかを定量的に評価する系が構築できた. また, 昨年度までにルシフェラーゼの種類を変更することにより発光で光制御系プローブを駆動できることが明らかとなった. そこでこの現象を活かした新たな細胞間シグナル伝達制御ツールの開発を行った. まず発光駆動の光制御が発光量, すなわちルシフェラーゼの量に応じた制御であるかどうかを確認した. 光制御系の動態を顕微鏡下で観察したところ発光量に応じた挙動を示すことが分かった. また光制御系により制御されるシグナル伝達系の活性を測定したところ, 添加する発光基質の濃度の対数に比例する活性化が達成されることが分かった. 今後はこの特徴を活かした制御系の構築に取り組む予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用第二年目である平成28年度は主として, 一細胞レベルでの定量的解析を志向した発光プローブの開発と, 開発したルシフェラーゼの発光による光制御駆動法の改良および評価に取り組んだ. 発光プローブの開発に関しては, 一細胞レベルでの活性の経時変化追跡が可能になるプローブを得ることができたこと, および光制御による制御効果が開発したプローブにより確認できたことが進捗として挙げられる. 一方で目標としている細胞間シグナル伝達の伝播動態の解析に関しては得られたデータのさらなる定量的な処理, および解析が必要となる. そのため進展としては, ほぼ予定通りだと考えている. 一方の発光による光制御駆動に関しては, 発光駆動の光制御が確認できたこと, およびルシフェラーゼと光制御系プローブ間の距離と制御の度合の対応付けができたことが進展として挙げられる. 得られた結果によると発光量が多ければある程度の距離まで光制御系プローブが駆動可能であり, 比較的高い自由度で発光駆動プローブが設計可能であることが分かった. この技術の応用としては, シグナルの活性量に依存したフィードバック制御が考えられる. このフィードバック制御は遺伝子工学的手法により生細胞への導入が容易であり, シグナル伝達の新たな制御ツールとなりうることが期待されるため, 順調に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は開発した光制御効果の定量解析法を実際の細胞間シグナル伝達系の評価に活用すること, また見出した発光駆動による光制御をシグナル伝達系の新たな制御法として確立することを目標とした. 空間的な光制御およびその効果の評価の対象としては, 細胞間接着や傍分泌シグナルにより活性化するWnt/β-cat シグナル系を選択し, 特定の細胞で活性化したシグナルがどの程度近傍の細胞にまで伝播するかを定量的に評価する. 開発した発光レポーターによればシグナルの活性化を一細胞レベルで数日間測定可能であるため, 特定の細胞のシグナル伝達を光制御系で活性化したのちのシグナルの活性の空間的分布の経時変化が追跡できる. そこでまず細胞間の距離とシグナル伝達の活性化量の関係を明らかにする. また, 光制御系で活性化するタンパク質を変更することで, シグナル伝達の活性化経路の違いによる伝播動態の差を解析する. このことにより細胞間シグナル伝達に重要な構成要素を明らかにできると期待される. 発光駆動の光制御系に関しては, 提案するフィードバック制御の可否を検討する. フィードバック制御はシグナル経路の基本的な構成要素であるが, 従来ではシグナルの活性量を検出するプローブと制御するプローブを個別に構築する必要性から人為的な模倣は困難であった. 発光駆動の光制御では, 活性量の検出および制御を「発光量」という共通の媒体を通じて行うため, 柔軟なプローブの選択が可能だと予想される. そこで発光を介したフィードバック制御の制御量が発光量と対応すること, および制御対象が幅広く選択可能であることを確認することで, 発光駆動の光制御が汎用的なフィードバック制御の構築となりうることを示す. また, 実際に発光駆動によるフィードバック制御がシグナル伝達経路の人為的に再構築に使用できるかどうかを検討する.
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Research Products
(5 results)