2016 Fiscal Year Annual Research Report
隕石の電子顕微鏡観察による天体衝突現象及び火星隕石の特異性の解明
Project/Area Number |
15J08812
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹之内 惇志 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 火星隕石 / 衝撃実験 / カンラン石 / 透過型電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請では火星隕石中カンラン石の黒色化現象から天体衝突現象の解明及び火星隕石の特異性の解明を行うことを目的とした研究を行っている。2016年度は2015年度に増やしたサンプルの走査型電子顕微鏡による詳細な観察を継続して行うとともに、月隕石中の着色カンラン石との比較、高エネルギー加速器研究機構でのXANES分析、衝撃実験、FIB法による試料作製及び透過型電子顕微鏡による詳細観察などを行った。XANES分析ではカンラン石中の鉄の3価の割合を測定し、黒色カンラン石は通常のカンラン石に比べて無視できない量の鉄3価を含むことが明らかになり、黒色カンラン石の形成過程が自己酸化還元反応である可能性を強く示唆した。衝撃実験ではカンラン石を含む玄武岩をターゲットに用いて黒色カンラン石の形成条件をより定量的に制約することを試みた。先行研究である粉末カンラン石を用いた衝撃実験では黒色カンラン石の原因となる鉄ナノ粒子が形成することが知られており、その研究と比較すると今回の実験では同程度の衝撃圧でも鉄ナノ粒子の晶出は見られなかったため、空隙率の違いによる上昇温度の違いが鉄ナノ粒子の形成に重要であることが明らかとなった。また、衝撃実験において、カンラン石中に天然のPlanar Deformation Features (PDFs)と呼ばれる組織と類似した特異なラメラ状組織が認められ、それらは衝撃圧力の増加と共に太くなる傾向が見られた。このラメラの太さは衝撃圧やその継続時間に依存すると考えられ、衝突現象を見積もる際の一つの指標になる可能性が見出された。月隕石中の着色カンラン石の比較観察では、月隕石でも火星隕石と同様に強い衝撃でカンラン石の着色が引き起こされている可能性が示唆され、リモートセンシングのデータ解釈の際などに特にクレーターの周囲などでは考慮するべき問題であることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にあるように2016年度は2015年度に引き続きサンプルの観察を続け、解釈を与えていった。観察においては2015年度までは走査型電子顕微鏡を主に用いていたが、2016年度は電子線マイクロアナライザ―による組成分析や集束イオンビーム法により作製した試料の透過型電子顕微鏡観察に重点をおいて観察を行った。そのため、2016年度はそのような新たな分析機器によるデータの取得に加えて、その分析機器の使用技術についても向上したと考えられる。また、2015年度までは火星隕石のみを扱っていたが、2016年度は月隕石やコンドライト隕石も観察を行い、特に月隕石では火星隕石に見られる黒色化に類似する現象が観察されるなど、観察は順調に進んでいる。2016年度は黒色カンラン石の形成条件を定量的に制約するために衝撃実験をあわせて行った。その結果、黒色カンラン石の形成には温度が重要な因子であることが明らかとなるなどの成果をあげ、更なるデータ取得のために実験回収サンプルの観察を今後も続けていく。 また、研究成果については2016年度には3つの学会(国内:鉱物学会年会、海外:Annual Meeting of the Meteoritical Society、Lunar and Planetary Science Conference)で報告を行った。学術論文に関しては2015年中に一件投稿済みであり、現在査読を待っている状況である。受理され次第二件目を投稿する予定である。 以上より、全体的に研究は順調に進んでいると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでと同様に火星隕石の観察を続けると共に、衝撃回収実験で得られたサンプルの詳細観察を続けていく予定である。観察の手法としては集束イオンビーム法により微小領域を切り出し、透過型電子顕微鏡を用いてナノスケールで観察をするという手法に重点をおいて進めていく。また、衝撃実験に関しては、衝撃圧力や温度の変化を熱力学的に計算し、より定量的なデータ解釈を行う予定である。これまでの衝撃実験ではカンラン石の黒色化は再現できていないため、加熱状態での衝撃実験を行うことも検討している。 衝突現象によるカンラン石の黒色化は火星隕石だけでなく、強い衝撃イベントであれば引き起こされる可能性がある。そのため、月隕石や強い衝撃を受けた普通コンドライト隕石においても広く観察することで衝突現象の理解につながると考えられる。今のところ、月隕石に関してはDho307という1つの隕石を対象としていたが、この隕石は地球上での風化が激しく、風化の影響の少ないサンプルと比較して観察する必要がある。今後は地球上での風化の影響が無い、アポロ計画により持ち帰られた月の石も試料として用いて研究をしたいと考えている。また、強い衝撃を受けた普通コンドライトに関しては、NWA 4719隕石中カンラン石で黒色カンラン石と類似の特徴を示すラメラ状組織が観察されており、そのような領域の透過型電子顕微鏡観察などを通し、カンラン石の黒色化の解明、衝突現象の理解につなげていきたいと考えている。
|
Research Products
(3 results)