2015 Fiscal Year Annual Research Report
マリヴォーからディドロへ 戯曲、上演、理論の関係にみる18世紀フランスの演劇美学
Project/Area Number |
15J08873
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥 香織 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 18世紀フランス / 演劇美学 / 作劇法 / 俳優術 / 定期市舞台 / オペラ=コミック / マリヴォー / ルサージュ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戯曲、上演、理論の関係に着目し、18世紀フランスの演劇美学の流れを明らかにすることを目的としている。初年度は、マリヴォーの演劇美学を同時代の諸要素との関連において相対的に明らかにすることを目指し、主として18世紀前半の舞台実践について詳細に調査した。特に、これまで行ってきたイタリア人劇団との関係についての成果を踏まえ、18世紀初頭の定期市舞台に関する研究を進めた。なかでもルサージュの作品(初期オペラ=コミック)について詳細に検討し、18世紀初頭のパリにおける非公認舞台の作劇法と演劇美学の一端を明らかにした。成果は日本演劇学会で発表し、論文にまとめた。 これまで中心的に進めてきたマリヴォー劇に関する調査・研究も、同時代の演劇との関係を検討しながら発展的に継続し、進めた。同時代の演劇(定期市舞台、イタリア人劇団)から影響を受けたマリヴォー劇では、言葉と身体(演技)が共に重要な役割を担う。この点に注目すると、マリヴォー劇とは両者の関係性によって舞台上で感覚の知を表象する/思考させるもの、人間と時間の関係性を問題化するものであり、ここには、同時代の演劇から影響を受けながらも独自に生成された「仄めかし」の作劇法/美学が認められることを明らかにした。成果は国際18世紀学会、日本フランス語フランス文学会で発表し、論文にまとめた。 調査・研究は、主として東京大学、早稲田大学の図書館、同大学演劇博物館で行い、大学の長期休暇の期間にはフランスでの資料調査・収集を行った。学会のほか、西洋比較演劇研究会、早稲田大学オペラ/音楽劇研究所の研究会にも参加し、時代や国、分野の異なる研究者と意見交換を行い、学際的かつ多角的な視点での比較研究を試みた。なお、今年度は18世紀前半の研究を中心的に進めたが、世紀中葉以降の舞台と俳優術についての報告を行う機会(西洋比較演劇研究会シンポジウム)も得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
18世紀フランスの演劇美学の流れを明らかにするために、初年度は、マリヴォーの演劇美学を同時代の諸要素との関連において相対的に明らかにすることを目指し、おおむね順調に研究を進展させることができた。特に、18世紀初頭の非公認の演劇(定期市舞台)における創作状況と舞台実践、作劇法について詳細に調査・検討し、マリヴォー劇との影響関係、相違点等を浮き彫りにすることで、次年度以降の研究を進めていく上での土台となる研究を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた研究成果を踏まえ、18世紀フランスの演劇美学に関する研究を進める。今後は、主として18世紀中葉以降の作劇法、俳優術、演劇論等を研究対象として演劇観・演技観の変容を検討し、世紀前半との共通点・相違点を浮き彫りにしながら演劇美学の流れを明らかにしていく。 18世紀中葉のフランスでは、俳優自らが演劇改革を試みる。そこで、次年度は、主として18世紀後半から19世紀初頭に活躍したコメディ=フランセーズの俳優について調査し、上演された演目とその上演方法・演技方法を実践と理論の双方から検討する。この作業を通し、18世紀中葉以降のフランスの舞台実践の実態と演劇美学の方向性を明らかにする。また、定期市舞台で誕生したオペラ=コミックは世紀中葉以降に発展し、同時代の演劇に影響を与えるため、オペラ=コミックに関する研究も発展的に継続させ、中葉以降の他の演劇ジャンルとの影響関係を検討する。 18世紀前半の演劇美学を相対的に理解するために、18世紀中葉以降の調査も既に開始しているが、上述の観点・方法で、今後さらなる詳細な分析と比較・検討を行っていく。また、今年度末の調査(パリ)で入手した資料(舞台実践と俳優術に関する)についても、今後さらなる分析を行い、成果を発表していく。 調査は主として東京大学、早稲田大学の図書館、同大学演劇博物館で行うが、出版されている俳優の回想録以外の一次史料については、フランス国立図書館、コメディ =フランセーズの劇場付属図書館等で調査・研究を行い、資料を複写して持ち帰り研究を進める。研究成果は、学会、国際シンポジウム等で発表し、論文にまとめる。
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Research Products
(6 results)