2015 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナムにおける特別なニーズをもつ子どもの教育環境:母親の意識を手がかりとして
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15J08939
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
白銀 研五 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 特別な教育的ニーズ / ベトナム / 教育環境 / 障害 / 制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ベトナムにおける特別な教育的ニーズをもつ子どもの親に焦点をあてながら、親が教育上の条件規定において第一義的な役割を果たす場を教育環境と措定し、親の教育への関わりを規定する要因を明らかにすることを目的としている。特に制度を人の行動を規定する規範ととらえる視点から分析を行ってきた。以上から、昨年度の研究では教育環境についての以下の知見を得た。 まず、社会的ネットワークに関して、特に障害児の親がもつそれは通常学校を中心として広がるのではなく、親は有用な情報や共感が期待される対象とのつながりを合目的的に選び取ろうとしていた。そして、この社会的ネットワークには家族とのつながりに近い親密性が内在している可能性が示唆された。また、ベトナムではインクルーシブ教育が実施されており、子どもを一緒に教育する「方法」と定義されている。この定義にもとづき法規上、教育機関の長の裁量を広げることをとおして、特殊学校でのインクルーシブ教育の実施が可能になっていた。さらに、障害に関する教育関連法規に埋め込まれた政治的意図の導出を試みた。すなわち、国のあり方が転換した時期に個人の権利や活動を認めたことによって、これらを規制する必要性が生じ、非社会主義圏からの法概念の導入がなされた。同時に、教育に対する寄付や参加を奨励する政策を国家の役割として推し進め、これを法規に反映させていった。これを社会主義の視点からみたとき、個人の活動を国家が主導する点で、特に個人の権利が重視される障害児への教育において、国は体制維持を意図した関与を図ったとみることができる。 以上の知見にもとづきながら、本年度はフォーマルとインフォーマルの制度に関して、この相互作用に着目しながら、特にインフォーマルな制度として親はどのように教育環境を整えるのかについて明らかにすることを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究では、教育環境の概念をさらに精緻化させるために、ベトナムでのインクルーシブ教育にみる独自のとりくみとこれを条件づける社会主義国としての法原理を対象に研究を進めた。左記の作業は昨年度9月の段階で終えたため、これ以降、制度の概念をさらに拡張させインフォーマルな親の活動を対象とした分析を試みた。この理由は、研究構想段階で想定していた社会的ネットワークについて、これが親の認識にもとづく点で客観的な分析枠組みに限界があったのだが、制度の概念を導入することで、この課題を克服し、教育環境をとらえる適切な枠組みを構築できると考えたためである。以上のことから、環境的な要因に関してより教育制度に比重をおくように研究を進め、特に学校外において親がインフォーマルに展開するとりくみに着目した。上記成果は11月の国際研究会で発表するとともに、インフォーマルな制度に焦点をあてながら分析を進めた。 ただし、制度分析に向けた研究へ比重を移し、概念の拡張を行ったため、ベトナムにおける総体的な教育制度をとらえるうえで、初等教育に限定せず高等教育を含めてこの特徴を整理した。そして、これを多国間比較の共同研究の一環として成果発表を行った。また、ベトナムにおける親のとりくみを相対化し、制度的特徴に迫る目的で、特別な教育的ニーズに関する地域社会のあり方について、共同研究事業の一環として東南アジア諸国における事例を参照した。この一連の作業をとおして、ベトナムにおけるフォーマルとインフォーマルの制度を再度分析したうえで、1月の国際学会で発表した。 以上のように、昨年度の研究では前半に分析枠組みを発展させる作業を行ったうえで、後半からは他の領域、地域の参照をとおした分析視野の拡大を図った。しかし、成果発表についてはほぼ当初の通り行えたため、おおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究は主として以下の2点に焦点をあてる。1つ目がフォーマルな制度について、2014年憲法改正前後における制度的変容を精査することである。そして、2つ目が、インフォーマルな制度として教育、医療サービスを提供する民営センターに焦点をあてる。 前者は特にフォーマルな制度とインフォーマルな制度の相互作用に着目する。インクルーシブ教育が受容されていったのは1990年代であり、インフォーマルな制度として学校外の親のとりくみは2000年代になって広がったとみられることから、フォーマルな制度が形成された後になって、インフォーマルな制度がされていったことが窺える。また、2010年には障害者法とともにこの下位法が制定された時期であり、この施行後に親のとりくみがどのように変容したかについてはわかっていない。このため、昨年度までの法規制度の研究にもとづきながら新たな憲法下の制度を改めて精査する必要があるだろう。後者の民営センターに関しては、インフォーマルな制度にはこの他にも親が行う障害児のための小規模学級や、法規の枠外で行われる補習などの存在が確認されている。この小規模学級は親が自発的に自宅を開放しつつ親同士で資金を拠出することで障害を専門とする教員を雇い運営されている。そして、組織内で親同士は情報交換を行ったり、個別の小集団を作って小規模学級とは別に専門家を招聘したりする活動を行っている。補習に関しては、民営センターなどで勤務した経験のある教員が親と個別に契約するかたちで自宅での教育や介入サービスを行っている。つまり、これらインフォーマルな制度としての親の取り組みは相互に独立して存在するわけではなく、民営センターと関連して展開されていることが推察される。 以上、フォーマルとインフォーマルの制度分析の視点から本年度において親が教育環境をどのように整えようとするかについて分析を行っていきたい。
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Research Products
(7 results)