2015 Fiscal Year Annual Research Report
スピングラス理論の最適化問題への展開による近似手法の典型評価法の確立
Project/Area Number |
15J09001
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高邉 賢史 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 統計力学 / キャビティ法 / 線形計画法 / レプリカ対称性 / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は本年度主に3個のテーマに対して研究を進めた。 第一に、統計力学的手法を用いた最適化問題に対する近似手法の典型性能評価である。昨年度は特定のランダムグラフ上に定義された最小頂点被覆問題に対する線形緩和法を解析した。本年度はこの結果を(1)多体相互作用を含む場合と(2)任意の次数分布で定義されたランダムグラフの場合へ拡張した。結果として、(1)の場合においても統計力学的解析により線形緩和法の典型近似性能が正しく見積られることを明らかにした。(2)では、貪欲法と線形緩和法という2つの近似手法の典型性能の悪化が起こる転移点とレプリカ対称性の破れる転移点の大小関係が3つの場合に分類されることを示した。以上の結果は、近似手法の統計力学的な典型性能評価の適用範囲を広げ、その転移とグラフ構造やレプリカ対称性の破れとの関連を明らかにした意義をもつ。 第二に、代表的な統計的推論である集団検査法の統計力学的解析を行った。多数の製品から少数の不良品を検出するために必要な検査回数を減らす方策を集団検査法と呼ぶ。報告者はその近似手法の一種であるブーリアン圧縮センシングを確率伝搬法によって実装した。さらに、その典型的な性能を一部拡張したレプリカ対称キャビティ法を用いて解析した。その結果、製品数が十分多い場合、ブーリアン圧縮センシングでは全不良品の検出に必要な検査回数が従来手法の半分となることを示した。 第三に、最小頂点被覆問題に対する線形緩和法の近似性能と反復回数(実行時間)の関係をレアイベント・サンプリングの手法を用いて数値的に研究した。線形緩和法により真の最適値が得られたか否かで各問題を簡単/困難に分類し、それらの問題での頻度分布間の距離を測定した。結果として、典型的に問題が簡単な状況では2つの頻度分布が区別できない一方で、典型的に問題が困難な状況ではそれらが区別されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
統計力学を用いた線形緩和法の典型性能評価に関しては、適用する最適化問題の拡張や任意の次数分布をもつランダムグラフにおける解析などを行い、その有効範囲を広げることができたと考えている。本課題については現在論文を投稿中である。 さらに、集団検査法におけるブーリアン圧縮センシングに対して確率伝搬法を用いた近似手法を提案し、その典型性能を統計力学的に解析する、といった統計力学的なアプローチに基づいた新たな近似手法の典型性能解析を行うことができた。本課題については現在投稿論文を執筆中である。 線形緩和法の反復回数に関するレアイベント・サンプリングによる研究は、今後グラフ構造と問題の難易度の相関を調べることを目標としており、近似手法の典型性能とグラフ構造の関係を明らかにすることが期待される。本研究はオルデンブルグ大学(ドイツ)のA. K. Hartmann教授との国際共同研究である。 以上から、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
統計力学を用いた半正定値計画緩和の典型性能評価については、イタリアのグループが論文を出版したため、課題の内容を一部を変更する予定である。一方で、線形緩和法のレアイベント・サンプリングに関する研究をより推し進め、グラフ構造と近似手法の近似精度の相関を検証することを目標とする。また、コミュニティ検出のような最適化問題として定式化可能な課題についても、統計力学的アプローチによる近似手法の提案と典型性能評価を推進していく予定である。
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Research Products
(7 results)