2016 Fiscal Year Annual Research Report
労働と全体主義の親和性に関する思想史研究――アーレントの労働思想を中心に
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15J09162
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
百木 漠 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | アーレント / マルクス / 労働 / 仕事 / 全体主義 / 新自由主義 / アソシエーション / 自由時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず篠原清夫・栗田真樹編著『大学生のための社会学入門』(共著、晃洋書房)の第11章「『格差』のための社会学」の執筆を担当した。「格差」と「階層」の違いなど、格差に関する社会学の基本理論を紹介したうえで、戦後日本が「一億中流社会」から「格差社会」へと推移してきた経緯とその社会的背景について入門者向けに解説した。 また『経済社会学会年報』第38号に掲載された査読論文「マルクスの未来社会論を再考する」では、マルクスが理想とした未来社会像が、従来批判されてきたような国家社会主義ではなく、むしろ自律的なアソシエーション社会であったことを論じ、その理路をマルクスの自由時間論と結びつけて考察した。 2017年3月に京都大学で開催されたアーレント研究会の春定例会では、牧野雅彦教授を招いて『精読 アレント『全体主義の起源』』合評会が開かれた。筆者はアーレント研究会の大会運営委員として研究会の企画・運営に携わるとともに、提題者として『全体主義の起源』第一部「反ユダヤ主義」に関する合評会報告を行った。 また2月に東京で開催されたJST(科学技術振興機構)セミナー"EU Onlife & Hannah Arendt"では、欧州委員会(EC)からNicole Dewandre氏を迎えて、近年の急速なテクノロジーの進歩と我々がどのように向き合っていくべきかについて、アーレントの「人間の条件」を用いながら議論を行った。筆者は"Introduction to Hannah Arendt"の報告を担当した。 『季報唯物論研究』第137号に掲載された依頼原稿「超現実の時代」では、大澤真幸の「理想の時代/虚構の時代/不可能性の時代」という三分類と東浩紀の「動物の時代」論を参照しつつ、1995年以降の日本社会を捉えるための時代区分として「超現実の時代」というカテゴリーを新たに提唱して論じ、好評を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
筆者は現在、2015年3月に京都大学へ提出した博士論文(2015年7月博士号取得)の書籍化にむけて、人文書院の編集者からアドバイスをいただきながら、原稿の執筆を進めている。すでに人文書院の編集者からは出版の許可を得ており、2017年度立命館大学の出版助成にも採択され(助成金100万円)、書籍化への準備を着実に進めているところである。現状では2017年10月中の脱稿と2018年3月中の出版を目指している。 また2017年3月24日から4月3日まで米国へ渡航し、ワシントンDCのLibrary of CongressやニューヨークのBard CollegeでHannah Arendt Papersにアクセスし、オンライン上で閲覧不可能なアーレントの講義録や草稿データを取得した。これらのデータは、今後の執筆・研究に大いに活かすことができそうである。あわせて3月30日から4月1日までBard Collegeで開催されたHannah Arendt Circleにも参加し、欧米で行われているアーレントの最新研究についての情報を収集し、現地の研究者たちと意見交換を行うことができたのも有意義であった。 博論の書籍化(仮題『アーレントのマルクス――労働と全体主義』)では、アーレントの思想を「労働と全体主義」という観点から再検討するとともに、アーレントのマルクス批判の妥当性を検証し、その思想的意義を見定めることを目指している。すでに一通りの原稿書き直しは終了しており、現在、指導教員や編集者のアドバイスを貰いながら更なる加筆修正を進めているところである。その考察の一部は、昨年『経済社会学会年報』や『季報唯物論研究』に掲載された原稿にも反映済みである。 2017年度は今回の米国渡航で得られた講義録・草稿データの精読を進めながら、その研究成果を原稿執筆に反映し、確実に書籍化できるよう全力を尽くしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず博士論文の書籍化(仮題『アーレントのマルクス――労働と全体主義』)を確実に実現することを目指したい。すでに立命館大学の出版助成金を獲得し、人文書院との交渉も済んでいるので、10月前半の脱稿に向けて、年度前半は原稿の執筆・推敲に集中するつもりである。原稿の仕上げにあたっては、アーレント研究の第一人者である森川輝一京都大学教授の指導を仰ぐ予定である。 あわせてその書籍の一部(第四章「社会的なものの根源」)を8月末に『社会思想史研究』に論文投稿する。指導教員や編集者からのアドバイスを元にした原稿の書き直しは一年以上前から進めており、すでに一通りの原稿は出来上がっている。今後は森川教授らの指導を受けながら、よりクオリティを上げるべく、推敲を重ねていく(特にマルクス関連の記述や先行研究を充実させる必要がある)。 加えて現在は、今年9月に共和国出版から発売予定の『ヘイトスピーチ・レイシズムを考える』という共著のための原稿も執筆中である(5月前半脱稿)。また『唯物論研究年誌』のポピュリズム特集にあわせて、アーレント思想から見た昨今のポピュリズム問題への分析に関する小論を寄稿する(依頼原稿)。 年度後半は、書籍化原稿のゲラチェック・最終修正を行うとともに、毎年3月に米国で開催されるHannah Arendt Circleでの英語報告に向けて、アブストラクトの提出を行う(12月中頃)。3月にはArendt Circleの参加にあわせて、Bard CollegeおよびNew Schoolでアーレントの草稿・講義録などの資料収集を行う。また各国のアーレント研究者と交流を深め、最新のアーレント研究事情について情報収集を行う予定である。 博論の書籍化をもってこれまでの研究の一区切りとし、次年度以降は別の研究テーマにむけてステップを進めることができればと考えている。
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Research Products
(5 results)