2015 Fiscal Year Annual Research Report
冥王代モダンアナログである蛇紋岩熱水系における無機的な有機合成メカニズムの解明
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15J09216
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
須田 好 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 蛇紋岩熱水系 / 炭化水素 / 分子内同位体分析 / 炭素安定同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
40億年以上前まで遡るとされる地球生命の誕生は未だ謎に包まれているが、超苦鉄質岩を母岩とする温泉/熱水環境(以下、蛇紋岩熱水系)は生命誕生の場を考える上で一つの有力候補である。なぜなら、岩石と水の反応で形成される高水素濃度環境が、生命誕生に必要な有機化合物を非生物的に合成することが期待されるからである。しかしながら、現存する蛇紋岩熱水系で見つかる最も単純な有機化合物ですらその具体的な生成機構は明らかでない。本研究では、炭化水素の生成機構の解明を目的として、陸上の蛇紋岩温泉において主に炭素の安定同位体比を利用した解析を行った。 2015年6月に蛇紋岩温泉である白馬八方温泉(長野県)の遊離ガスおよび水試料を採取した。温泉試料中に微量に含まれる炭化水素成分を濃縮・精製する前処理法を確立して適用した結果、炭素数1-5までの飽和炭化水素を初めて検出し、その炭素同位体比を決定することに成功した。白馬八方温泉の直鎖状炭化水素については、炭素数の増加に伴って規則的に炭素同位体比が減少する傾向が観測された。 また、蛇紋岩熱水系の炭化水素の起源解明を目的として、分子内レベルの炭素同位体分析の適用を試みた。炭化水素分子の生成・消費プロセスに関する情報は本来、分子内の同位体分布に内在すると考えられる。分子内同位体分析は、従来の同位体分析法で得られる分子レベルの情報とは違った、炭化水素の起源に関する新たな情報を提供することが期待される。「プロパンの分子内炭素同位体分析法」は近年開発された手法であるが、炭化水素濃度の低い蛇紋岩熱水試料への適用はこれまで実現に至っていなかった。本研究では、前述した前処理法を応用することで問題の解決を計り、世界で初めて蛇紋岩熱水に含まれるプロパン分子中の炭素原子位置ごとの炭素同位体組成を明らかにした。今後、得られたデータをもとに炭化水素の生成機構を議論する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、微量の炭化水素成分を計測するための前処理法を確立し、蛇紋岩温泉中に含まれる炭化水素の濃度及び炭素同位体比の計測に成功したため。 また、この前処理法を応用したことで分子内同位体分析も成功しており、概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は得られたデータをもとに、蛇紋岩熱水系における炭化水素の生成機構を考察し、論文化する。 また、溶存有機酸の炭素同位体計測、岩石ー熱水反応実験を新たに開始する予定である。
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Research Products
(2 results)