2015 Fiscal Year Annual Research Report
マレーシアにおけるイスラーム金融紛争処理制度の研究―その特徴とグローバルな汎用性
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15J09218
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川村 藍 京都大学, 東南アジア研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | イスラーム金融 / 民事紛争処理制度 / ドバイ・アプローチ / マレーシア・モデル / シャリーア適合性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は6月26日から9月9日までの間、マレーシア国民大学イスラーム経済・金融研究センターで客員研究員(EKONIS)として、マレーシア国民大学法学部や経済学部に所属する教授や研究員たちとイスラーム金融に係る判例収集及び分析を行い、倒産や事業再生においてイスラーム金融取引を扱う事による法的課題について考察した。マレーシア地域仲裁センターでの聞取り調査及び資料収集から、マレーシアにおけるイスラーム金融関連の仲裁案や調停案に関する内部情報を得ることができ、イスラーム金融における民事紛争処理制度の実態が明らかになってきた。マレーシア・イスラーム金融研究所(IBFIM)の協力で、イスラーム金融をめぐる民事紛争処理制度に関連する文献及び判例の情報収集、関係者への連絡等ができ、専門家との連携を拡大することができた。 8月10日から8月20日にかけて、ジャカルタのインドネシア中央銀行イスラーム金融部門の責任者である研究協力者からインドネシアにおけるイスラーム金融の新たな法整備及び実務の実情について聞取り調査及び情報収集することができた。インドネシア大学経済学部では資料収集に加えて、院生を対象としたイスラーム金融の講義で一コマだけ講義を担当した。また、インドネシアのマランでは、マラン工科大学のイスラーム金融の専門家の協力で、インドネシア語の資料と文献収集を行うことができた。7月29日に開催されたマレーシア・イスラーム経済金融会議(Conference on Malaysian Islamic Economics and Finance, CMIEF 2016)にて、基調講演をさせていただく機会に恵まれ、同会議で同じく基調講演したハミド元司法長官にイスラーム金融に係る法制度及び判例の問題について情報収集する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は東南アジアで実施した調査結果により、イスラーム金融の民事紛争処理制度として裁判制度を運用に焦点をあてているマレーシア特有のモデルを検証することができた。平成27年度はマレーシア国民大学イスラーム経済金融研究所の研究員や教職員との連携で、マレーシアにおける判例を50件以上収集することができた。これらの判例の中でも、倒産処理や事業再生に関する判例について調査する研究チームにもオブザーバーとして加入させてもらった。また、クアラルンプール地域仲裁センターとマレーシア中央銀行シャリーア諮問評議会のメンバー、マレーシア・イスラーム金融研究所(IBFIM)の協力で情報及び資料収集により、イスラーム金融の民事紛争処理研究に関する近年の研究動向について情報収集ができた。インドネシアではインドネシア中央銀行の研究協力者によって、イスラーム金融の新たな法制度や規制監督制度の確立について聞取り調査及び情報収集することができた。マレーシアでの調査結果をもとに、マレーシア特有のイスラーム金融に係る民事紛争処理制度を「マレーシア・モデル」として分析した。 これまでの調査で「ドバイ・アプローチ」と「マレーシア・モデル」を比較検討しながら、それぞれのモデルの汎用性について検証し、調査内容は英語論文にまとめ、ブックレットとして出版する予定となっている。また、「ドバイ・アプローチ」及び「マレーシア・モデル」に関する調査結果を次年度にケンブリッジ大学で開催される湾岸研究会議でペーパー発表することが内定している。平成27年度で得た東南アジアにおけるイスラーム金融の民事紛争処理制度に関する分析結果をもとに、来年度は中東湾岸諸国の動向と比較検討することでメタ地域的にイスラーム金融の民事紛争処理制度の実態を明らかにすることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、イスラーム金融の民事紛争処理制度を中東湾岸地域と東南アジア地域における特性を整理し、メタ地域的な視点から総合的にイスラーム世界の実態を明らかにする。特に、イスラーム金融市場を牽引してきたアラブ首長国連邦とマレーシアで登場した新たに発見した「ドバイ・アプローチ」と「マレーシア・モデル」の汎用性について検証する。アラブ首長国連邦とマレーシアがイスラーム金融市場のハブとして位置づけられてきたため、これらの地域に着目してイスラーム金融の民事紛争処理制度について調査してきた。その結果、これまでの調査研究では、「ドバイ・アプローチ」や「マレーシア・モデル」といったイスラーム金融の先駆的な民事紛争処理制度の事例を発見してきた。アラブ首長国連邦で登場した「ドバイ・アプローチ」は、登場した当時の経済状況が契機となっており、暫定的な側面が強いことが明らかになっている。一方の「マレーシア・モデル」はマレーシア中央銀行が主に主導して法制度を整備し、イスラーム金融に係る民事紛争処理制度がトップダウンで構築された歴史が明らかになってきた。アラブ首長国連邦を始めとする中東湾岸諸国ではマレーシアを始めとする東南アジア諸国からの人材がイスラーム金融の産業を支えていることから、中東湾岸諸国におけるイスラーム金融をめぐる民事紛争処理制度の構築に関わることが十分考えられる。このことから、中東湾岸地域及び東南アジア地域におけるイスラーム金融に係る民事紛争処理制度の動向が地域ごとではなく、メタ地域的な観点で調査することが必要であると考えられる。したがって、イスラーム金融市場における民事紛争処理制度の実態を調査する上で、中東湾岸諸国と東南アジア諸国の両地域の法制度を比較しながら、イスラーム金融の実務に携わる当事者との聞取り調査や人材教育にも着目してフィールドワークを展開していく。
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Research Products
(4 results)