2016 Fiscal Year Annual Research Report
包括的な行為理論の構築および倫理と自由意志の問題への展開
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15J09267
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
對馬 大気 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 行為 / 意志 / 理由把握 / 重要視 / 理由システム / 行為説明 / 自然と規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は以下の三点である。(1)前年度の研究の総括及び見直しと、学会発表を通じたその成果の公表。(2)その発表において導入された「理由システム」の在り方についての考察。(3)物理的世界と規範的世界の関係、及び行為説明についての考察。以下では、紙幅の都合上、(1)と(2)のみを詳しく述べる。 (1)意志と理由把握:前年度の研究においては、行為者がもつ意志の内部構造を解明することによって、自律的行為を分析した。報告者はこの研究成果を、「理由」や「規則」といった概念により中心的な役割を担わせるような観点から捉えなおすことを試み、以下の成果をえた。第一に、自律的に行為するとは、理由に基づいて行為することとほぼ等しい。第二に、理由に基づいて行為するときには、「世界内で成立する個別的状況を、行為の良さを示すもの=理由として捉える」という態度、すなわち理由把握が伴う。第三に、理由把握を可能にする条件として、ある対象への重要視と、そこに含まれる「一定の状況を一定の項の理由として捉えよ」という規則の束へのコミットメントが伴う。つまり、個別的に為される行為も、それが理由に基づいている限り、状況と行為を関連付ける規則体系と結びついているのである。 (2)理由システム:理由システムは、行為者が人物をはじめとする個別的対象への重要視をもつことによって生じる場合もあれば、共同体や社会の側にあらかじめ存在している場合もある。(例:道徳・法・礼儀作法、学校・会社・宗教等の諸制度に埋め込まれた規則体系。)理由システム概念の眼目は、行為の理由が単独で働くのではなく、むしろある一連のシステムのなかで意味をもつということである。そしてこのことは、一定の理由に基づいて為される行為にも当てはまる。理由に基づいた(そしてそれゆえ、記述が特定された)行為は、あるシステムや脈絡の内部でのみ、意味をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者の研究計画は、包括的な行為理論を構築するとともに、それを倫理学の問題や自由意志の問題へと接続することであった。この計画に照らして平成二十八年度の研究を評価すると、以下の三点を指摘できる。 (1)平成二十七年度における、「意志」という行為者の心理的内部状態に着目した自律的行為の分析を、「理由」や「規則」という公共的概念によって捉えなおすことができた。これによって、行為論と倫理学を接続するという課題に一定の見通しができたのは、小さくない成果であると自負している。 (2)更に、行為説明の問題(とりわけ、それが因果的説明なのか規範的説明なのかという論争)という分析行為論の中心的主題に取り組み、一定の成果をあげた。とりわけ、行為説明が因果的説明の一種であることと、行為説明が規範的説明であることは両立するということを、自らの理論的枠組に基づいて説明した。この成果は、包括的な行為理論の構築という課題の達成に寄与するものである。また、行為説明という主題において規範性と因果性を調停する一つの形を示したことは、行為論に限らず、哲学一般の観点から見ても、ある程度の意義をもつと思われる。というのも、自然主義と反自然主義の対立、及びその調停という問題系は、現代哲学の諸分野を貫くものだからである。以上の諸点に鑑みて、行為説明についての研究成果もまた、本年度の研究の進展に寄与するものであったと思われる。 (3)自由意志の問題については、あまり扱えなかった。とりわけ、非両立論を擁護する論証として知られる帰結論証と操作論証の検討には、ほとんど取り組めなかった。この点で、自由論と行為論を架橋するという課題については、それほど進展したとはいいがたい。 以上三点を総合的に考慮した結果、「(2)のおおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
報告者の研究計画は、(1)包括的な行為理論の構築、(2)倫理の問題への展開、(3)自由意志の問題への展開、という三要素によって構成される。これらのうち、行為理論の構築については成果があがっている。また、倫理の問題への展開についても、平成二十八年度の研究によって、一定の方向性が見出されたと言える。他方、自由意志の問題への展開については、あまり成果が見られていない。以上の事情に鑑みて、今後は自由意志の問題への展開を、最重要課題として設定する。また、倫理の問題への展開も、引き続き並行して進めていきたい。以下、自由意志の問題への展開という課題について、具体的に述べる。 この課題については、「意志の自由は決定論と両立するか」という伝統的な問題に取り組みたい。この問いに「両立する」と答える立場は両立論、「両立しない」と答える立場は非両立論と呼ばれるが、非両立論の陣営は、帰結論証と操作論証という二つの強力な議論をもっている。これらの論証にどう抗すればよいだろうか。 帰結論証は、ある推論規則を使用して「決定論が真であれば、私の行為は過去と自然法則の帰結であり、別の行為を為す余地はない(したがって、自由ではない)」と論じる。しかし、もし意志の一部は傾向性としての制御能力であるとすると、その推論規則の使用は、必ずしも正当化されないかもしれない(これに類する論点が、M. Faraによって提示されている)。他方、操作論証は、事例を巧みに組み合わせて「決定された行為は操作された行為と重要な点で同じであるため、自由ではない」と論じる。しかし、意志の生成過程や、制御能力が顕在化する過程を詳細に検討すると、「操作された行為と重要な点で異なる決定された行為」も可能であることがわかるかもしれない。 約言すれば、意志概念それ自体を検討することによって、両立論の部分的な擁護が可能になるかもしれないのである。
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Research Products
(1 results)