2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J09464
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鵜飼 敦子 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | グローバル・ヒストリー / ジャポニスム / 日仏文化交渉史 / 比較文化 / 金唐紙 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目に引き続き、金唐紙が現在どの程度日本に残っているのかを調査し、その保存状態と分布を明らかにすることができた。また、本年は国外に調査地を広げ、フランスのパリ装飾美術館内の収蔵庫で調査をおこなった。このなかで、これまで整理されていなかった壁紙コレクションを調査し、明治期につくられた金唐紙と考えられる1点を確認することができた。日本美術の愛好家であった美術評論家のフィリップ・ビュルティが同美術館に寄贈したものと思われる。同時に、これまで明らかにされてこなかった、国内の二箇所でも金唐紙や金唐革の実物を確認することができた。ひとつは長野県岡谷市の旧林家住宅内である。蔵の中の和室に異なる模様の金唐紙が張り巡らされており、おそらく国内では最も保存状態のよいものであろう。またもうひとつは、山梨県甲州市の民家に保存されていた江戸時代の金唐革2点である。舶来品の蒐集を趣味としていた先代の主がオランダ渡りのワインに関する収集品とともに求めたもので、ひとつは額装、もうひとつは薬箱に仕立てられている珍しいものである。以上の調査結果から、金唐革と金唐紙がオランダから日本へ、そして日本で独自の発展を遂げてフランスへ渡ったという世界循環史的な側面を持っていることが裏付けされた。金唐紙については、ソウル国立大学大学院の環境学研究科でおこなわれた万博に関するシンポジウムで2016年の11月すでに発表していたが、ソウル国立大学のシンポジウムプロシーディングス World Expos and East Asiaのなかで成果として英語で執筆し電子版として出版された。またLinking Cloth-Clothing Globally研究会の国際シンポジウムにおいて、Circulations of Kinkarakawa and Kinkarakami, Gold-gilded leathers and papers, 17th-19th ceunturiesと題した発表をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの美術史の認識について考え、その問題点を見直し、新しい美術史の解釈と叙述を作り出すという当初の目標に近づく研究ができたと考える。循環史をテーマとした国際シンポジウムでの発表を受けて、活発な議論と質疑応答があり、工芸としての紙や革製品についての注目が高まっていることを実感した。目標に掲げていた、宗教や民族、人間集団といった、これまでの歴史叙述の前提となっていた既存の枠組みを問い直すために、「工芸品」という具体的な例をもって調査をおこなうことができた。目指している新しい叙述は、比較することによって文化の違いを強調するものではない。人々が創りだした「工芸」に注目した歴史記述の新たな視点を提供することである。そして地球上すべての人間が、同じ地球という場所に帰属しているという意識を高めることにある。この大きな研究テーマに対し、紙と革の工芸に着目した美術史の叙述を試みており、次年度は本研究の最終年度となるため、本年はそれにつながるような調査ができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究の最終年度となるため、これまでの調査結果をまとめて分析し、それが歴史的にどのような意味を持つのかということまで考えることが必要となる。とりわけ受入研究者が提唱する「新しい世界史」に賛同する国内外からの招聘者がおこなうセミナーや研究集会は、海外の研究機関で活躍する研究者と意見を交わす貴重な機会となっている。これらの講演や議論に積極的に参加することで、新たなアイデアが生まれることも多く、本研究にとって非常に有用な経験となるため、時間の許す限り参加して国内外の研究者と議論をおこなっていきたい。また、美術史以外の歴史学、人類学、経済学などを専門とする若手研究者や、海外の研究機関で活躍する人々と接して、今後の研究の進展さらに理論の組み立てに役立てたいと考えている。
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