2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本外交の国際主義的契機―1920年代における国際連盟と普遍的枠組みへの関与
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15J09466
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
番定 賢治 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 国際連盟 / 日本国際連盟協会 / 国際連盟協会連合会 / 移民問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度、当研究者はまず、日本国際連盟協会の活動の実態とその過程を、各国の国際連盟協会により構成される国際連盟協会連合会での活動などといった国外に対する活動の面から検討するという研究に着手した。当研究者は、まず国内において、日本国際連盟協会の機関誌である『国際知識』に収録された協会の活動報告の他、外務省外交史料館所蔵の日本側外交文書に残された同協会の関係文書、同協会に中心的に参加した人物による著作や私文書を閲覧した。その上で申請者は、国際連盟協会連合会における議論の詳細や日本国際連盟協会の活動の海外における評価を検討するため、スイス・ジュネーブの国際連盟公文書館(League of Nations Archives)所蔵の国際連盟協会連合会関係文書を閲覧するとともに、2015年9月13日から同28日まで、ロンドンの大英図書館(British Library)とパリのナンテール大学現代国際関係文書館(BDIC, Nanterre Université)にて史料調査を行い、英国国際連盟協会(League of Nations Union)や国際連盟協会連合会の関係史料を収集した。 次に当研究者は、国際連盟や関連する多国間会議での移民や外国人の待遇の議論対して日本政府や日本代表委員がどう対応したかを検討した。このため当研究者は、国際連盟創設直後における人種差別撤廃提案の再検討の過程、1924年のジュネーブ平和議定書起草における日本代表の修正提案、1924年と1928年の国際移民会議、1929年の国際連盟外国人待遇会議に関して、外務省外交史料館所蔵の日本側外交文書を閲覧するとともに、これらに関するイギリスの外交文書を閲覧するために、2016年2月29日から3月7日まで、ロンドンの英国国立公文書館(The National Archives)にて史料調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本国際連盟協会に関する研究の結果、日本国際連盟協会が、国際連盟協会連合会という多国間民間交流の場において、日本特有の利益や主張を各国に理解させることだけに関心を示すのではなく、普遍性を確保しつつ国際社会全体に通用する原則を形成しようとしていたということが明らかになった。当時の日本の政府および世論においては、多国間主義に基づき国際社会すべての関係を規律する原則を改革しようと訴える見方は一般的でなかったと言われている。しかし、本国から地理的に遠いヨーロッパへ連合会総会の代表を毎年派遣しなくてはならないという問題にもかかわらず毎年代表を派遣しており、その総会では山東半島返還問題において中国国際連盟協会と緊張を孕みながらも緊張緩和を目指し、人種差別撤廃問題と通商衡平待遇問題といった問題の討議において自ら進んで改革案を提示することで多国間の議論を先導し、各国の国際連盟協会から好意的に評価されていたということが判明した。 また、移民問題や外国人待遇問題への対応に関する研究の結果、国際連盟を中心とする多国間枠組みにおいて、日本政府がパリ講和会議における人種差別撤廃提案を継承する形で日本人移民の待遇の改善を目指す提案を、前面に出さないながらも模索していたということが明らかになった。日本政府は初期の国際連盟総会や1924年のローマ国際移民会議では、人種差別撤廃提案を提出することを一度検討しつつ、最終的には避けることになった。しかし、1924年のジュネーブ平和議定書の起草過程において、日本政府は国内問題とされる問題に理事会が関与する余地を残す条項を加えることにより、人種差別撤廃提案を避けつつ日本人移民の保護に繋がる主張を議定書に反映させることに成功したということが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は上記2点の研究に加えて、もう2点の課題について研究を進めたい。 1点目は、国際連盟における経済問題の議論、とりわけ通商衡平待遇問題の議論に対して、日本政府や日本代表委員がどれだけの範囲でそれを活用しようとしていたのかという問題である。国際連盟創設後、国際連盟の経済財政委員会では通商衡平待遇問題を含む経済問題への継続的な取り組みがなされるとともに、日本政府においても通商衡平待遇問題において日本が有利な提案を行いうるという認識が広がっていた。この様な状況下で、日本政府は国際連盟や多国間の会議において通商衡平待遇における有利な提案を行うことができたのか、また経済問題で国際連盟と協調しようとする日本政府の姿勢は国際連盟の外における日本の経済外交においても影響を与えたのかという点について、国際連盟初期の経済問題への取り組みにおける日本の対応、通商航海条約改定を巡る二国間交渉における日本政府の態度、1927年のジュネーブ国際経済会議での議論、大恐慌後の変化といった事例に注目して検討したい。 2点目は、日本国際連盟協会の国内活動に見られる同協会の目的意識や組織の特徴である。国際連盟がそもそも欧米各国における民間の平和運動と強く結びついて成立した一方、日本では第一次大戦中の平和運動が弱かったにもかかわらず日本国際連盟協会が創設された様に、国際連盟運動が欧米と異なる文脈で結成された。この様に欧米と異なる環境下で活動する中で、日本国際連盟協会がどれだけ広範囲に活動することができたのかについて、協会の会員数の変化やその内部構成、協会の予算編成(収入源・支出先)、協会主催の講演会の内容や聴衆の構成を分析することにより検討したい。
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Research Products
(3 results)