2015 Fiscal Year Annual Research Report
コロイド懸濁液におけるシックニングレオロジーとその微視的機構の解明
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15J09476
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山中 貞人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | コロイド懸濁液 / マイクロレオロジー / 流体力学的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度では、ミクロな視点から濃厚領域における流体の役割を明らかにすることを目標に、アクティブなマイクロレオロジーとよばれる手法を用いて数値的な研究を行った。まず、多数の粒子が分散したコロイド懸濁液の中で、プローブとなる1つの粒子を一定外力でドラッグしたときに、プローブが受ける抵抗が体積分率や流体力学的効果によってどのように変化するのかを考える。そのために、流体力学的相互作用を直接取り込むことができる流体粒子動力学法とよばれるシミュレーション手法と、流体を含まない粒子シミュレーション手法のそれぞれを用いて計算を行い、広い体積分率についてプローブ粒子の抵抗係数を計算した。また、粒子間のコンタクトによって生じる応力鎖の性質や、プローブ粒子の周りの流れの性質にも着目した。 その結果、体積分率の高い領域では粒子間コンタクトによって応力鎖が増大するとともに抵抗係数が増加し、ある体積分率で抵抗が発散的に振る舞うことがわかった。また、流体ありの場合には比較的低い体積分率で抵抗の増大が始まり、発散する直前の体積分率では流体なしの場合よりも抵抗係数が20倍以上も大きいことがわかった。これらの結果は、粒子間に流体力学的相互作用が働くことで、プローブの抵抗の異常発散が促進されることを示している。さらに、粒子間斥力による粒子圧力や粒子の運動に伴う変位の相関を計算することにより、流体の非圧縮性を反映して粒子の協同的な運動が広範囲に現れることがわかった。これらの結果は、粒子間に介在する流体が応力鎖の形成および構造をアシストする役割を担っていることを示唆している。 以上に説明した流体力学的相互作用の役割は、濃厚な懸濁液では流体力学的効果が遮蔽されるというこれまでの常識に反する新たな描像を提示するものであり、コロイド懸濁液のレオロジーにおいて普遍性をもつ重要な知見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終的な研究目標は、コロイド懸濁液におけるシアシックニングのメカニズムの解明と、流体力学的相互作用を明らかにすることにある。近年、粒子間摩擦が強いコロイド懸濁液に対してせん断流を印可すると、システム全体にパーコレートする応力鎖が形成されることで、せん断速度の増加に伴って急激に応力が増加する不連続シアシックニングが誘起されることが明らかにされた。しかしながら、上記の研究実績の概要に述べたように、粒子間の流体力学的相互作用によって応力鎖がアシストされ、長距離にまで伝搬するという振る舞いはマイクロレーロジー系に限らず、せん断流を印可されたマクロなレオロジーに対しても現れると考えられる。したがって、流体によって保持された応力鎖によって劇的なシアシックニングが起こることが予想される。平成28年度は本来の研究計画にあったように、流体効果を含めた数値計算手法を用いてマクロな粘性を測定する予定である。マイクロレオロジーの研究で得られた結果は、これからの研究にとって重要な示唆を与えるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
シアシックニングにおける流体力学的相互作用に着目した研究を行う。はじめに、流体粒子動力学(FPD)法による数値シミュレーション手法の確立を目指す。FPD法は、剛体粒子に関する運動方程式と流体に関するナビエ-ストークス方程式を組み合わせたハイブリッドな手法であるため、剪断をかけるためにこの両方程式に対する適切な境界条件を取り入れる必要がある。さらに、近距離の流体相互作用である潤滑効果を取り入れ、これを定量的に検証することが重要である。その上で本格的な数値シミュレーションに移行する予定である。 まず、コロイドの濃度や剪断速度に対する粘性の振る舞いを調べることで動的な相図を作成し、過去の実験結果との詳細な比較を行う。特に、流体力学的相互作用がある場合とない場合とで、粘性の振る舞いにどの洋画違いがあるのか、またその背景にある流体力学的相互作用と応力鎖との間の結合のメカニズムについて研究を行う。 さらに、コロイド粒子の接触による摩擦効果に着目して研究を行う。そのため、過去の理論的なマイクロレオロジーの知見に基づき、コロイドの界面における動摩擦効果をFPD法に取り入れる。その上で数値シミュレーションを行い、粒子接触によるボンドや摩擦力の分布とforce chainのパターンを調べることで、シックニングの統計的な性質を明らかにする。流体力学的相互作用だけの場合と摩擦が取り入れられた場合とで、応力鎖の性質がどのように異なるのかを研究する。このことは、これまでに一部の研究者の間で粒子間摩擦が不連続なシアシックニングにおいて本質的であると考えられてきた過去の研究に対して、重要な知見をもたらすものと考えられる。
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Research Products
(2 results)