2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J09485
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西野 勇人 立命館大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 高齢者介護 / 社会保障 / ジェンダー / 国際比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、高齢者介護に関わるジェンダー構造を高齢者介護政策と家族介護の問題を包括的に明らかにすることである。平成27年度の研究課題は概ね順調に進展しているが、いくつかの点では順序を入れ替えて実行しており、今後課題が残る部分もある。 本年度の研究実績は大きく2点である。1点目に、主に今年度は先進国の高齢者介護政策の国際比較を進めた。具体的には、日本を含む7ヵ国の介護政策について、特に現金給付政策の比較を行った。結果として、家族介護のジェンダー構造との関連を捉える上では、支出規模と制度内容の両面での比較が必要であることが提案された。以上の内容は“Contradictory functions of long-term care policy in gender issue”として中央大学(韓国)で口頭報告を行い、松田亮三・鎮目真人編『社会保障の公私ミックス再論―新しい視座を求めて』(ミネルヴァ書房)に収録された。 2点目に、日本において家族介護の役割がどの程度存在しているのかを分析した。具体的には、NFRJ-08Panelのデータを用いて、親へのサポート提供と子の就労の関連を分析した。従来のような1時点の情報のみの横断データでは、親への援助をすることで就労が短くなっているのか、就労が短いから親に対する援助に時間を使っているのかを判別することが難しかった。本研究では2時点の情報を用いて分析を行うことで、親への家事・看護のサポートの増加が子の就労時間、特に娘の就労時間を減らす作用があることを明らかにした。以上の内容は、共著書として、筒井淳也・水落正明・保田時男編『パネルデータの調査と分析・入門』(ナカニシヤ出版)に収録される(2016年刊行予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度の研究課題は概ね順調に進展しているが、いくつかの点では順序を入れ替えて実行しており、今後課題が残る部分もある。本年度の研究では主に各国の質的な情報収集を優先したため、政府統計データの点検・加工や個票データの分析には着手できておらず、これらは次年度の課題となる。 本研究は、高齢者介護サービスを普遍的かつ効率的に保障するための家族介護支援政策と、社会における家族介護場面でのジェンダー不平等の関係を明らかにすることである。最終的な目的はデータ分析により上記の関係を検証することにあるが、それに先立ち、理論的な仮説と分析に用いる指標を構築する必要がある。本年度は各国の制度内容の国際比較を行うことで、理論的に重要な比較のポイントを抽出することから始めたが、高齢者介護における現金給付政策は、制度内容やその政策的意図、歴史的背景などにおいて多様であり、先行研究においても理論的な概念区分についての議論が続いている。 本年度は、そうした先行研究についての批判的検討を加え、上記の記述的情報を収集し整理することを優先し、データ分析に先立つ理論的な概念区分について検討を行った。以上の理由から実際のデータ分析作業は本格的には次年度から着手することとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では引き続き各国の高齢者介護政策の制度内容の記述を拡充しつつ、政府の集計データと個票データの統計分析を行っていく。その際には平成27年度までに収集したデータや情報を適宜再構成しながら、制度内容、制度の歴史的発展過程、社会・文化的な現状を考慮して家族介護におけるジェンダー平等度合いを規定するメカニズムを検証する。具体的には以下の4点に取り組む。 1点目に、各国の高齢者介護政策の制度内容を検討し、博士論文全体で用いる理論仮説の考察を進める。本研究では、介護サービスの普遍的保障に向けて家族介護者が呼び出される側面に着目し、普遍的なサービス供給と家族内でのジェンダー不平等の関係に社会保障制度が及ぼす関係を検証する。本研究では上記の関係性を捉える理論を提出することをめざし、引き続き理論的な検討を進める。 2点目に、昨年度に続き、OECDや世界銀行などのデータベースから、関連する政府統計を収集し、制度内容や個票データと関連させた情報整理を行う。高齢者介護政策だけでなく、年金や医療などの他の社会保障制度についてのデータを補足し、個票データの分析で用いられるように情報整理を行う。 3点目に、本研究で用いる個票データを再度選定し、データの取得と加工、分析を行う。また、必要に応じてデータの扱いについて専門機関に相談を仰ぐ。これらの個票データと政府統計を統合したデータセットを用いて、マルチレベル分析を行う。以上の分析により各国の制度が家族介護の担われ方に及ぼす影響を分析する。 4点目に、アジアにおけるう社会保障制度とジェンダー不平等について分析を行う。日本と韓国のパネルデータを用いて分析を行い、上記の仮説を検証する。社会的背景の類似点が多い韓国との比較を通し、日本における家族介護者と社会保障の関係を明らかにする。
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Research Products
(3 results)