2015 Fiscal Year Annual Research Report
近世東アジアにおける伊勢神宮認識に関する思想史的研究
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15J09552
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
肖 月 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 神道 / 伊勢神宮 / 度会延佳 / 神異記 / 王常月 / 道教 / 東アジア / 近世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究活動は前期と後期に分けている。前期の研究計画テーマを「近世前期の伊勢神宮と度会延佳の伊勢神道説」にして4月から6月まで史料の収集を行っていた。史料の解読に連れ、近世前期の伊勢神道家度会延佳の神道説をもう一度近世前期という時代の背景に置き、当時の伊勢参りの状況と伊勢神宮の地域の状況を合わせて分析を行った。当時の社会は度会延佳の学問活動にどのような影響を及ぼし、また彼の学問活動の動機の分析を試みた。また逆に度会延佳の著作から彼は当時の伊勢神宮地域社会、民衆の伊勢参りなどどのような考えがあるのかを分析した。すなわち、「伊勢神道説」は社会と人の双方的な影響によって、どのような変貌を見せたのかという問題意識を辿った。本研究ははじめて近世の伊勢参りと伊勢神道説の関係を試みることに意義がある。また、以前はまったく重要視されなかった「神異記」を思想史と社会史の両方の視角で分析を行ったこともかなり重要である。前期の研究は日韓次世代学術フォーラムにも認められたため、8月の末に研究報告をした。 後期は「中国道教家王常月の「龍門心法」と度会延佳の「陽復記」―十七世紀各々の「心学」言説の分析」というテーマのもとに前期の研究対象度会延佳の神道説を当時の「東アジア」に置き、彼の『陽復記』をほぼ同じ地位に立っていた中国道教思想家の王常月の『龍門心法』と比較をした。戦乱を経過した度会延佳と王常月の神道説であれ、道教教説であれ、両者の著作から当時の社会状況の一斑を伺える。同じく「心」への注目、社会現状への不満、「理想国」の様子はかなり一致していたという点を辿った。本研究は2015年度末中国キ南大学で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は以前の「伊勢神宮に対して当時東アジアの人々がどのような思いを抱いたのか」という研究の方向から、伊勢神宮だけをキーワードにするのではなく、様々な視角、方向で、東アジアの近世期(17~19世紀)において伊勢神宮とは何なのかへと方向が転換した。一見内容は伊勢神宮の研究に見えるが、本研究は伊勢神宮の位置付けを考える手かがりとして、「伊勢神道」の神道説の神宮知識人のなかでの回流や社会での伝播、さらに伊勢参りとの相互関係の検討に入った。研究の実行可能性、研究としての合理性が大幅に上った。また伊勢神宮を「東アジア」のなかにおいて検討する一つの方法として、同じ戦乱期を経過した度会延佳の神道説と中国道教思想家の王常月の道教教説を比べた。当時両国社会の異同にも注意しながら、本研究は初めて「伊勢神道」の「東アジア」のなかでの位置付けを試みた。しかし、2015年前期に蒐集した近世前期のほかの伊勢神宮神道家の神道説がまったく分析の対象にならなかった。特に神宮の古典として重視された『日本書紀』神代巻、『先代旧事本紀』などの神主たちの解釈の分析もまったく進まなかった。また2015年度前期の研究をもとに一本の論文を出したが、後期の研究成果はまだまとめていないので論文として発表することは次年度以降とする。
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Strategy for Future Research Activity |
今年の3月に近世前期伊勢神宮の知識人著作の基本整理の際、あまり注目されなかった度会延佳と同時代の外宮神主龍煕近という人の史料を分析し始めた。4月の今の時点は氏の『神国決疑編』『日本書紀神代巻評註』『神国三徳評』の分析をほぼ終え、これから主に去年分析を終えた度会延佳の『日本書紀神代巻講述鈔』との比較作業を行う予定である。 2016年も同じく研究を前期と後期に分ける予定である。 前期は近世前期から中期まで伊勢神宮における『日本書紀』神代巻の解説、注釈作業を分析する予定である。主な対象としては、度会延佳、龍煕近、久志本常彰の神代巻解説書である。またサブ作業として、近世前期から中期まで「後期伊勢神道説」はどのような変貌を見せたのかを研究する。それは主に度会延佳ー河崎延貞ー井面守和ー久志本常彰という線で辿っていく。当時の社会状況、特に伊勢神宮の地域に起きた様々事件(例えば伊雑宮事件)などの社会背景にも注意する。 後期は近世前期に資料が少ないゆえに研究制限がある民衆の伊勢参りを検討する予定である。最近出版さればかりの資料をもとに、近世の伊勢参りと伊勢神道、言い換えれば「伊勢の大神」とはどのような関係だったのか、また民衆の伊勢参りと神主の伊勢神道の相互影響の実態はどのようなものなのかを明らかにする。
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Research Products
(7 results)