2015 Fiscal Year Annual Research Report
植民地期台湾における近代彫刻の成立と展開(1895-1945年)
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15J09673
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 恵可 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 台湾美術史 / 日本近代彫刻 / 植民地美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、前半期は日本に、9月以降の半年間は台湾の中央研究院歴史語言研究所の訪問研究員として、在外研究に従事した。この期間、台湾現地関係者の方の協力により、美術史研究に重要な個人コレクターや美術家遺族の方々への訪問を複数回行うことが出来た。また、台湾での関係機関(台南市文化局、台北国史館等)に保存されている作品についても、見学依頼の上で実見することが出来た。その他、昨年度は自身の研究に関連する美術家らの生誕100年と前後するため、台湾において相当数の関連展覧会が開催され、それらの見学も行えた。まだ整備の進んでいない台湾近代美術史研究にとって、在外研究の機会を生かして、このように植民地期の美術作品を網羅的に見学する機会を得たことは、自身の研究にとって大きな収穫となった。また、資料収集や作品の実見といった具体的成果以外にも、関係者との人的交流が進んだことは、今後の調査の進展にとっても重要な意義があった。文献調査の面では、中央研究院と台湾大学図書館を中心とした文献の閲覧、および近年整備が進んでいる台湾史関係の各種デジタルアーカイヴを利用して順調に資料収集が進行した。 昨年度は、こうした調査を背景に、台湾の学術誌において二本の中国語論文を発表し、また学会発表(中国語発表)一回を行った。各テーマは、植民地期の日台彫刻史に関するもので、(1)日本留学をした台湾人彫刻家の活動について、(2)近代日本の彫刻家が製作に関わった、台湾警察官慰霊碑というモニュメントについて、(3)植民地期に台湾に渡って活動した日本人彫刻家について、である。これらの論考のなかで、植民地期台湾における近代彫刻の多様な側面を示すことが出来たと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、(1)博士論文の基礎となる調査の遂行、(2)投稿論文等研究成果の積極的な発表、(3)自身の研究の土台を広げるための海外での人的交流の促進、の三点を中心に研究はおおむね順調に進行した。博士論文調査の実施状況、および研究成果発表については、「研究実績の概要」に述べたとおりであるが、台湾での研究滞在を通して、基礎資料の収集や作品の実見が進行し、関係者との人的交流が進んだ。また、台湾において中国語論文の研究成果を発表出来たことで、自身の研究にとってもひとつのステップアップになった。学会発表においても台湾研究者からの貴重な指摘を多く受けることが出来き、今後の博士論文につながるものとなった。 昨年度は、当初希望していたヨーロッパでの調査をテロ等の情勢のために取りやめたが、その替わりに、台湾以外の東アジア地域に足を運ぶ機会が出来た。たとえば、昨年6月28日~7月11日の間には、韓国国立中央博物館主催の「NMK 2015 Museum Network Fellowship」に参加した。この研修を通して、韓国美術史に対する造詣が深まっただけでなく、同時代の他地域における近代彫刻と植民地との関わりについての研究を進めることができた。 その他、台湾滞在中にも美術史や歴史学の研修等、世界での人的ネットワークを広げる機会に積極的に参加した。それにより、長期的なスパンで自身の研究を広げていく土台を作ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、引き続き台湾に滞在しながら調査を進め、年度末までの博士論文提出を目標とする。主な研究内容と目標は、以下の四点である。 (一)台湾での現地調査:研究所、図書館等での文献資料の収集以外に、台湾での個人コレクション調査、台湾各地に残された銅像・神社跡地の現地調査、また美術家遺族らとの交流および調査を深める予定である。具体的な調査先は、中央研究院台湾史研究所、台湾大学図書館、国家図書館、国史館、蒲添生彫塑記念館、台北市立美術館、台湾国立美術館等である今年度は、植民地期の調査以外にも、1945年前後から戦後にかけての彫刻作品の移動についても研究を進める。 (二)台湾以外の海外調査:昨年度、世界情勢の関係もあり実施出来なかった、ヨーロッパにおける銅像および近代彫刻と近代日本の彫刻家との影響関係に関する研究についても、現地調査を含め実施したい。また、前年度に引き続き、上海や江南、福建といった台湾と近い中国大陸の各地域における美術、近代美術の移入に関する影響関係についても、調査を続ける。また、日本近代彫刻と他の植民地との関係について、韓国での調査も予定している。 (三)日本での調査:近代日本人彫刻家、また植民地期の日台政治関係者の資料を改めて調査し、日台近代彫刻史と関係のある資料を発見したい。主な調査先として、国会図書館憲政資料室、後藤新平記念館、朝倉文夫記念館、北村西望記念館等を予定している。また、児玉源太郎、樺山資紀、内田嘉吉などの台湾植民地期の日本人総督・官僚等の個人関係資料を調査する。 (四)成果発表:今年度は、台湾での中国語口頭発表1回、中国語査読論文一本の発表、および日本での学会発表1回を目標としている。それら個別の発表に対するレスポンスをよく消化し、各論を台湾近代彫刻史全体へと統合することで博士論文の完成を目指す。
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Research Products
(4 results)