2015 Fiscal Year Annual Research Report
アルベール・カミュのアルジェリア戦争期「暴力」論 -神話的モチーフの草稿研究-
Project/Area Number |
15J09684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 惟央 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | アルベール・カミュ / ブリス・パラン / ジャン・ポーラン / 反抗 / 言語 / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアルベール・カミュのアルジェリア戦争期(1954-1960)「暴力」論の再構成を目的としており、初年度はカミュの思想的立脚点を明らかにするために哲学的著作『反抗的人間』(1951年)を精読し、「反抗」概念の分析を中心におこなった。その結果、哲学者ブリス・パランがカミュに与えた影響の重要性を発見し、パランの著作からの参照を明らかにした。具体的には、カミュの「反抗」概念が、「表現の一哲学について」(1944年)、「反抗についての考察」(1945年)、『反抗的人間』等のテキストで形成されていく過程をたどり、その際にカミュがパランの「超越」概念を批判的に受容していることを確認した。また、カミュとパランがもっとも盛んに交流したのは1940年代であり、当時のレジスタンス活動やイデオロギー闘争(特に共産主義)のなかで両者が発言していたことを考慮して、1940年代のカミュの暴力論を優先的に分析した。その成果として、ジャン・ポーランが著作『タルブの花』で提起した「言語の不確実さ」の問題が、ポンジュ、サルトル、パラン、ブランショらによって盛んに論じられ、当時のパリ文壇を賑わせた重要な問題系であったこと、カミュもまたそれに応じる仕方で自らの言語観を表明していたこと(「表現の一哲学について」)、その言語観が「反抗」思想の形成に関わっていたことを明らかにし、その成果を学会で発表した(研究発表欄参照)。1940,50年代を含めたカミュ思想の総合的研究の基礎を作ることができたうえ、個別作家研究にとどまらない同時代の思潮との比較研究に着手した点で意義がある。その他、次年度以降の研究に向けて、パリ大学やフランス国立図書館にて、日本国内で手に入らないカミュ関連資料のほか、ほぼ絶版となりフランスでも入手困難なパラン関連著作を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の中心的な課題は、カミュの資料と先行研究を収集、整理することであったが、フランス滞在によってカミュ関連著作の他にも、ブリス・パラン等の作家の著作を収集し、今後必要な資料の全体像を把握することができたため。また、カミュの思想的基盤である「反抗」概念の生成にいたる手がかりを得られたことは大きな成果であり、結果として作業の重点が1940年代のテキストに移り、アルジェリア戦争期のテキスト分析がやや停滞したものの、本研究の課題にとってより根本的な主題(「反抗」概念の読み直し)に取り組む基礎を作ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果をもとに、ひきつづきカミュや同時代の作家の資料(著作・書簡・手帖など)の収集・分析をおこなう。当初の研究計画では1950年代のテキストを中心に分析する予定だったが、本年度に引き続いて今後も1940年代のカミュ思想の分析を確かなものにするよう次年度の研究方針を修正したい。具体的には、1. 言語をめぐる思想と「反抗」概念の分析(哲学的な思想研究)によって分析の軸を確固たるものにし、2. アルジェリア戦争期の著作を通じた暴力論の分析(社会・政治的な文脈に沿った思想研究)へと接続していくことを予定している。本年度に訪問予定であったアルベール・カミュ資料館は、上記の研究方針の修正を理由に延期したが、調査計画を練り直して次年度以降に訪問する予定である。
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