2015 Fiscal Year Annual Research Report
双極性障害の一人称的視点理解へ向けた現象学を中心とする包括的アプローチ
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15J09777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷内 洋介 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 双極性障害 / 躁状態 / 自己 / 物語 / 期待 / パターン / 不安 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、双極性障害という精神障害についての哲学的アプローチからの解決方法を探るための基礎となる研究を行った。 まず、第一の成果においては、精神疾患とは何かという問いにアプローチした。ここでは、精神疾患とは自己のあり方の特有な変容状態であるという見方を得ることができた。最終的には、精神疾患の概念は「自己のパターンの崩れ」として捉えることができると結論付けた。このテーマについては、英語での口頭発表を行った。また、精神障害において神経-生物学的な側面と心理-社会的な側面とがどのような対応関係-影響関係にあるのかという点についての見識を深めた。この成果は、より調査を重ねつつ次年度に論文として発表する予定である。 第二の成果としては、双極性障害特有の症状である躁状態について、独自の哲学的知見を得ることができた。躁状態は、主観的に見た際に一種の理想的な状態とみなされることが多い。そのため、躁状態が病理的であると言われる基準は客観的な側面に限られる。しかし、この研究では当事者の書いた手記に基づきつつ三つの側面から躁状態の主観的側面にアプローチすることにより、主観的な面の中に含まれた病理的側面を見出すための観点が得られた。一つ目のアプローチは、躁状態のうちに含まれる「期待」についてのものであり、二つ目のアプローチは、躁状態における自己のあり方についてのものである。そして三つの目のアプローチは、躁状態の裏にひそむそのような「期待はずれ」に対する態度の変化を「不安」の一種として記述するというものである。第一のアプローチは、日仏哲学会での発表を行い、第二のアプローチは日本現象学会での発表後、その原稿が『現象学年報』に採択された。第三のアプローチは名古屋哲学フォーラムにて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
双極性障害の一人称的視点の包括的理解へ向けて、1年目としては問題のない成果が出たと言える。 特に、躁状態の理解についてリクールの物語的自己の観点から論じた論文は、日本現象学会の学会誌『現象学年報』での採用が決定している。また、その他の側面からも躁状態への理解としては十分な考察ができたといえよう。 そして、精神障害とは何かに関する論考を進めることができた。この一部は博士論文の基礎となる内容であったり、また他の部分は2年目に論文化することができる可能性の高い。
以上を考慮して3年間で研究をまとめる上で順調な進捗状況であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目においては、三つの方面から研究を推進していく。一つは精神障害とは何かという問いに対する1年目における成果を踏まえて、具体的な業績とすることである。この点に関しては、精神障害一般に関しての精神療法と薬物療法という二つのアプローチの効果や作用機序の違いを足がかりとして、精神障害が個人の内的な心理状態だけでなく、言語や社会規範、身体といった領域との相互作用の中で成立しているという見解を提示することを目標としている。
また、二つ目としては、1年目において行った躁状態についての研究を双極性障害におけるうつ状態の理解へと接続する。現在持っている作業仮説として、躁状態における特有の期待についての態度はうつ状態においても維持されており、同様の態度が異なる結果を生んでいるという違いがあるに過ぎないのではないかと考えている。また、双極性障害のうつ状態は、他の精神障害におけるうつ状態とは異なり、このような期待への態度を基礎としているという点において区別されるべきであると考えられる。このような仮説が正しいかどうかを、既存の精神医学や現象学的精神病理学の研究と照らし合わせつつ、当事者の手記やインタビューを用いて検証していく。
三つ目としては、二つ目でも触れたが、双極性障害の当事者に対してフィールドワークおよびインタビューを行う。1年目までの研究は主に当事者の手記を情報源としていた点で制約があった。躁状態やうつ状態、そしてそれが環境とのどのような相互作用の中で成立しているのかという点について当事者の生の声からわかることを研究の中に盛り込んでいきたい。
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Research Products
(5 results)