2016 Fiscal Year Annual Research Report
双極性障害の一人称的視点理解へ向けた現象学を中心とする包括的アプローチ
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15J09777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷内 洋介 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 現象学 / 精神医学 / 哲学 / 双極性障害 / 一人称的視点 / 身体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、双極性障害の一人称的視点を研究するための基礎として、理論的考察を行った。具体的には神経科学的側面からのアプローチと、インタビューによるアプローチの二つを行った。 ひとつ目の神経科学的なアプローチについては、双極性障害の躁状態やうつ状態といった症状が、神経科学的な説明のみでは完結せず、いかに環境や自己の身体との関わりの中で発現しているかについて洞察を得ることができた。神経科学的な視点からは、双極性障害は生物学的な、「脳に内在した」原因によって発現している障害であるが、躁や鬱といった状態は当事者の(主に社会的な)環境への働きかけおよび環境からのフィードバックから成り立つループの中で発現している。また、そのループは当事者が持つ言語などを含めた「環境へ働きかける技術」といった側面抜きに考えることはできない。こうした、神経科学から見て外在的な原因について焦点を移すことにより、薬物治療だけでなく認知行動療法のような心理社会的な手段がなぜ一定の治療効果をあげているのかについて説明することができるようになるだろう。このアプローチについては論文での発表を準備している状態である。この研究は、神経科学を専門とする他の院生との共同で行い、学際的に進行している。 また、ふたつ目の双極性障害当事者へのインタビューを中心とした研究については、その方法論において倫理面などにおいて問題があることがわかり、方針を転換することが求められている。今後は自由とは何かと言ったより一般的・哲学的な観点から研究を行うべきであると判断し、その具体的な準備を推し進めている。 だが、こうしたアプローチは当研究者の体調不良が原因で研究の進行は遅れ、年度内の業績にすることは叶わなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当研究者の体調不良により、昨年度の8月以降、研究の進捗に著しい遅れが生じている。昨年度は療養に専念することにより、状態は快復しており、今年度から研究に復帰できる状態だと判断している。 また、当事者へのインタビューを中心とした研究手法が倫理的・方法論的に問題含みであることを受け、研究方針について一定の変更が必要となったことも、研究が遅れた原因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は双極性障害当事者へのインタビューを中心とした情報収集を念頭においた研究であったが、倫理的・方法論的な問題により、方法論的な面において修正が必要である。 そのため、本研究は文献調査を中心とした情報収集を主な方法としながら、当事者の主観性について、「(病理と対比される意味での)自由とは何か」と言った、より哲学的な側面を当てて、研究を推進することにする。 本研究者の体調と研究方針の改善により、本年度の研究は成果に結実すると考えられる。
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