2016 Fiscal Year Annual Research Report
多価不飽和脂肪酸の生理機能解析に資する新規脂肪酸プローブの開発と応用
Project/Area Number |
15J09839
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
徳永 智久 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | エイコサペンタエン酸 / ω - エチニル型 EPA / クリックケミストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
エイコサペンタエン酸(EPA)は抗炎症作用など様々な効能を有する生理活性物質として、大きな注目を集めている。その一方で、その分子メカニズムの詳細は不明である。EPAの生理機能を解析するためにEPAのω末端にエチニル基を導入したω-エチニル型EPA(eEPA)を開発した。eEPAを用いることによりクリックケミストリーを用いた化学修飾が可能であり、EPA修飾タンパク質の探索などの解析に応用可能である。本年度の研究では、EPA生産性細菌をモデル細菌として、本菌におけるeEPAを用いたEPA修飾タンパク質の探索および同定と細胞内局在性解析を行った。 初めに、本菌におけるEPA修飾タンパク質の探索及び同定を試みた。eEPA存在下で培養した本菌の不溶性画分を可溶化し、銅イオン存在下でアジドビオチンとのクリックケミストリーによりeEPAが共有結合的に付加したタンパク質を化学修飾した。ビオチン標識したタンパク質は、ストレプトアビジンビーズで精製した後、SDS-PAGEに供し、Ruby染色を行った。その結果、eEPAを介してビオチン標識されたと推定されるタンパク質バンドの検出に成功した。さらに、ビオチン標識されたタンパク質について、プロテオーム解析を行った結果、eEPA修飾タンパク質の同定に成功した。次に、eEPAの細胞内局在性解析を行った。eEPAの比較対象として、本菌の主要な脂肪酸であるパルミトレイン酸(PAL)のω末端にエチニル基を導入したω-エチニル型PAL(ePAL)を用いた。 eEPA及びePAL存在下で培養した菌体を化学固定した後に、アジド基を持つ蛍光色素を添加し、クリックケミストリーによる細胞内のeEPAおよびePALの可視化を試みた。その結果、ePALを添加した細胞では細胞全体に拡散した蛍光シグナルが検出された細胞が多かったのに対して、eEPAを添加した細胞では蛍光シグナルが細胞内に不均一に検出された細胞が多く観察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
eEPAを用いてEPA生産性細菌において共有結合的にEPAが付加したEPA修飾タンパク質の探索および同定を試みた。eEPA存在下で培養した本菌の不溶性画分を可溶化し、銅イオン存在下でアジドクマリンおよびアジドビオチンとのクリックケミストリーによりeEPAが共有結合的に付加したタンパク質を化学修飾した。クマリン標識されたタンパク質を検出した結果、eEPA を介して蛍光標識されたと推定されるタンパク質が10種類検出された。この結果は、eEPA が共有結合的にタンパク質に結合していることを示唆するものである。次に、eEPAと天然型EPAとの競合実験を行った。eEPA と同時に天然型 EPA を添加して培養した菌体について同様の蛍光標識を行った結果、天然型 EPA の添加量に応じて蛍光標識されるタンパク質のバンド強度が減少したことから、eEPA によるタンパク質修飾は天然型 EPA により競合的に減少することが示され、本菌における EPA 修飾タンパク質の存在が強く示唆された。eEPA によって修飾されるタンパク質群を同定するために、eEPA存在下で培養した本菌の不溶性画分をアジドビオチンで化学標識し、ストレプトアビジンビーズを用いたアフィニティー精製に供した。精製されたタンパク質群をペプチドマスフィンガープリンティング法で解析した結果、eEPA修飾タンパク質の同定に成功した。これは、今までに報告のなかったEPA修飾タンパク質の存在を強く示唆するものである。本菌におけるeEPAの局在性解析においても、eEPAを添加した細胞では蛍光シグナルが細胞内に不均一に検出された細胞が多く観察されたことから、本菌には EPA 含有リン脂質が特異的に濃縮することで、他の領域とは物理化学的特性の異なる生体膜環境が局所的に形成されている可能性が示された。 以上の結果は、本菌におけるEPAの生理機能発現機構の解明に大きくつながるものであり、eEPAのEPA生理機能解析への有用性を示すものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
EPA生産性細菌におけるeEPAの局在性解析において、eEPAを添加した細胞では蛍光シグナルが細胞内に不均一に検出された細胞が多く観察された。これは、本菌の主要な脂肪酸の一つであるパルミトレイン酸とは異なる挙動である。今後、より詳細な局在を解析するために、STED顕微鏡を用いることにより超解像画像を得る。また、eEPA修飾タンパク質においては、未同定のタンパク質候補の同定を進めるとともに、eEPA修飾型タンパク質の結合様式について解析する。さらに、同定された eEPA 修飾タンパク質のうち 3 種について、C末端に His タグを付与したタンパク質を発現するゲノム改変株を作製し、eEPAとの共染色による局在性解析や機能解析を行い、タンパク質のEPA修飾の生理的意義について解析する。
|
Research Products
(4 results)