2016 Fiscal Year Annual Research Report
「水のグローバルガバナンス」の法学的分析―水への権利と民営化の関係を中心に―
Project/Area Number |
15J09910
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平野 実晴 京都大学, 総合生存学館, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 水への権利 / グローバルガバナンス / 投資条約仲裁 / 世界銀行 / 持続可能な開発目標 / グローバル行政法 |
Outline of Annual Research Achievements |
「水のグローバルガバナンス」は断片化しており、規範対立の原因であると指摘する先行研究が多い。特にこうした見解は、国際経済法を適用する機関が水への権利を考慮していないと批判してきた。 最も論争を呼んできたのが、水道事業の民営化から生じた投資条約仲裁の判断例である。申請者は、7つの仲裁判断を詳細に検討し、水への権利と投資条約上の国家の義務が矛盾しないことを実証した。さらに、仲裁が水道供給を行う企業を監督する規制機関の独立性を重要な考慮要素として判断を示していることを指摘した上で、水への権利の特別報告者が求める政策と一致していることを示した。この後、新たな仲裁判断が公開されたが、研究成果に沿う判断内容となっていることを確認している。また、世界銀行の場合、貧困層に対する特別の考慮を内部規則で規定するなど、水への権利に配慮した政策が推進されている。 また、SDGsの進捗を評価するための指標が最近定められたが、飲料水へのアクセスの設備形態が段階的に分類されていることや、政策実現過程で住民参加を求めている。さらに、ISOのような民間団体の規格も、任意ながら水道事業の運用に適用される水道サービスの評価基準を定めている。こうした非国家実体や制度は、水への権利やその他関連する国際会議などを参照し、目的を共有していると言える。この目的のもとで、国内機関の行動に一定の規律が及ぼし、国の裁量の幅を狭めている。 投資条約仲裁や世界銀行は、国内政策への影響力が特に大きい反面、国内の民主的意思決定手続きからは外れており、正統性の観点から疑問が生じる。しかし、市民が意見を提出できるする手続き(世界銀行のインスペクションパネルと投資条約仲裁のamicus curiae)が整備され、一定の応答を求めることで正統性を確保する傾向が確認できる。重要な点として、参加者の専門性が手続きの有効に機能させるために求められる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第1年度よりいくつか検討してきた諸理論の中から、グローバル行政法論を取り上げ、個別領域として調査してきた世界銀行と投資条約仲裁における公衆の参加手続きの活用事例に当てはめる論文を執筆し、国際ジャーナルに掲載された。この内容は、国際ワークショップでも一部報告を行っている。また、投資条約仲裁に関して、仲裁判断内容を水への権利から照らし合わせ、仲裁廷の判断枠組みを評価する共著論文の修正等を行い、国際的に著名な出版社の編書のなかに収録された。また、以下で述べる在外研究期間中には持続可能な開発目標で用いられる指標に関する研究を別途行い、帰国後に研究ワークショップで報告した。 本年度はさらに、これまで分析を行ってきた国際ないしグローバル平面での条約や基準と、国際機関の活動、紛争解決手続き、国際的な評価といった制度を踏まえ、三つ目の軸として水供給に関する公共政策の国内における実現過程を実践的に検討することとした。作業モデルとして、研究によって明らかにしてきたグローバルな法原則を実現する主体として国内の水道関係の機関をとらえ、それら機関の活動に法原則が取り入れられる現象に着目することとした。調査を行うに際しては、条約や基準などに記されている法原則が、国内の機関の用いる業務言語にどのように変換されているか、経験的に把握することを本年度の第一目的とした。 調査を行うに際して、事業体や規制機関の国際的なネットワークであるInternational Water Association (IWA)にて在外研究を実施した。本機関は、特に水道の規制機関の国際連携を促進しており、研究員は調査業務に参加する中で、各機関の取り組みを機能別にまとめた。こうした取り組みを踏まえ、博士論文を、国内の水道事業体や規制機関といったアクターをグローバル行政法上の実現主体として構成するという着想を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
第3年度は、これまでの研究成果を博士論文としてまとめることに専念する。作業としては、以下で詳述するプロジェクトを実施するのと並行して、これまでの投稿論文や報告を加筆・修正し、博士論文分の執筆につなげる。適宜、京都大学で開催される国際法研究会をはじめとした発表の機会を活用し、質の向上を目指す。 理論の構築として、アメリカ行政法に着想を得て理論構築されているために手続法中心の構想となっているグローバル行政法論に、実体的規範である水に関する法原則を取り込み、また国内機関をグローバル行政上の政策実現主体としての位置づけを与える理論構築を目指す。具体的には、水への権利がグローバルな給付行政の根拠として作用しており、グローバル空間での政策形成・実施過程をグローバル行政の実現過程としてとらえることを提唱する。この枠組みの下では、SDGsの指標や世界銀行、投資条約仲裁などは、グローバル政策を形成し、実現するためのメカニズムであり、国内での政策運用を推進する機能を持つようになっている。 また、International Water Associationと、水道事業の規制における住民参加に関する調査プロジェクトを実施する。水道料金という問題を生じさせやすい事項を対象に、各国の手続きとその運用を共同で集め、分析を通して、グローバル行政政策の実現過程を運用の観点から明確にする。積極的に分野横断的でかつ課題解決的な調査研究を行うことで、法の理論的分析に現実性を持たせるにとどまらず、これまでの研究成果を効果的に社会に還元する道筋を描くことができると期待される。
|