2015 Fiscal Year Annual Research Report
抗議行動がもたらす政策変化の成功と失敗の解明:チリを事例とした地方レベルでの分析
Project/Area Number |
15J09947
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
星野 加代 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 社会運動 / チリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は[A]地方レベルの政治的機会を明らかにし、[B]政策変化に成功/失敗する抗議行動の差異を示すことを目的とする。抗議行動が生じる際の政治環境、すなわち政治的機会については研究が進められてきた。しかし、同じ政治制度や経済政策を実施する一国内で、抗議行動の影響力がなぜ異なるかは明らかでない。本研究は1980年頃から地方分権を進めるチリを事例に、開放的な地方の政治的機会のもとで政策変化の確率は高まるという仮説を検討する。 民主化後の抗議行動が政策決定に与える影響については、社会運動研究者の間でも重要視されながら十分に研究が進められてこなかった。先行研究では、米国で発生した単一の抗議行動研究が多いため、明らかにされてきた理論の一般化が疑問視されており、そもそも抗議行動と政治変化の相関はあるのかが議論されている。さらに、政策変化に成功する運動と失敗する運動の相違点は検証が十分になされていない。 また、社会運動研究において政治的機会は大変重要な要因とされてきたが、市民・政府間関係から考察されることが多かった。本研究は中央・地方政府間関係も含めることで、一国内の政治的機会の多様さを示し、地方レベルでのミクロな社会運動比較研究の可能性を提示する。政府間関係の変化を迎えるチリを事例に、なぜ成功する抗議行動と失敗する抗議行動が存在するのかを明らかにする。 分析には新聞記事やインタビュー、組織文書等を用いてチリ国内で発生した抗議行動の情報を体系的に収集、分析し、政策変化に成功した抗議行動と失敗した抗議行動の情報を収集することで要求実現のメカニズムを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、理論研究を中心に進めた。主に地方分権化論、政府間関係研究を中心に文献の収集および講読を行うことで、地方政府のイデオロギーが政策の志向性(開発主義/福祉志向)を決めることが多いことが明らかになった。チリにおける地方分権化の動きについては、政府機関の発表する文書、新聞を中心に情報を集め検討した結果、地元の権益を主張する地方主義政治家や政党が近年台頭していることが明らかになった。特に北部と南部で活動がなされている。翻って市民の抗議行動を見ると、同様に北部と南部で地域の発展に焦点を当てた行動がみられており、その行動の後、政策変化が行われた、あるいは検討がなされていることが多い。首都のある中央部でも抗議行動は行われているが、主張を見ていくと、ローカルの発展ということではなく、チリ国民に共通する問題の解決を求めるという立場で主張がなされており、地方と中央の格差や、その土地特有の問題を焦点にした北部、南部の抗議行動とは異なることが確認できた。これらの地域主義政治とローカルな抗議行動は同時期に発生していることから、政府のイデオロギーと市民の抗議行動の主張が近い場合に政策変化が生じやすいと仮説を立て、調査を進めている。 本年度の成果は、平成27年5月のラテンアメリカ研究国際学会にて報告した。本研究は、地方政府間の違いが影響を与えるとの立場で研究を進めており、その要因の有効性を検討した。チリにおける市民組織への参加の程度を決める要因として、地方ごとの政治的機会(市長、市議会の党派(イデオロギー)、市の財政)と市民の不満の程度(所得や失業率)を想定し、分析を行った。その結果、政府間の財政の違いが市民参加に影響を及ぼす一方で、政党の違いや市民の不満は特に相関がみられないことを明らかにし、地方政府間の違いとして財政力に注目することの妥当性を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、現地調査を中心に資料の収集及び分析を行い、政治に影響を与える抗議行動とそうでない抗議行動の違いを検討する予定である。これまでの研究成果から、チリ北部、中央部、南部において、各地特有の抗議行動が発生し、その後の政治への影響が異なることが明らかになっている。チリ北部および南部の抗議行動に関しては、日本で得られる情報が少ないため、各地の新聞社や、大学や研究機関で抗議行動や政策変化を研究する研究者を訪ね、抗議行動の詳細を探る。同時に、それらの抗議行動には労働組合が参加していることが多いので、労働組合のオフィスへも調査へ赴く予定である。南部においてはこれまでの現地調査から複数のネットワークを有するが、北部には調査の基盤がないため、南部および中央部で既知の研究者や抗議行動組織から助言をいただき調査を進めていく。 研究成果については、まず、平成28年6月に日本ラテンアメリカ学会にて、地域ごとの政党の選好に関する発表を行う。報告の成果を、学会誌である『ラテンアメリカ研究年報』に投稿する予定である。8月にはアメリカ社会学会年次大会で、中央・地方政府間関係の違いがもたらす市民参加への影響に関する量的分析の結果を発表する。発表後、その場の議論を反映させ、Mobilization(抗議行動研究を中心とした学術誌)へ投稿する予定である。また、現地調査結果は、年度末に報告を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)