2015 Fiscal Year Annual Research Report
3次元形態を制御した細胞がしめす走化性誘導因子への応答の違い
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15J10080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 允 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 走化性 / 細胞性粘菌 / 細胞形態 / イメージング / 微小流路 |
Outline of Annual Research Achievements |
走化性運動は細胞一般がしめす基本的な細胞機能であり、走化性誘導因子にむかって細胞が移動する現象である。形態形成過程では特定の細胞を所定の位置へ誘導するのに利用される他、ガン細胞の転移、免疫応答に関与する。走化性運動の理解は重要な課題の1つである。 走化性運動についてのこれまでの研究は主に2次元平面上の細胞を対象にしてきたが、実際の細胞は周囲を他の細胞で囲まれた環境下で走化性運動を行う。近年、周囲を3次元的に囲まれた細胞の走化性運動に、これまでに発見されていない細胞動態や分子メカニズムの存在が示唆された。しかし、実際の細胞集団を対象に解析することは複雑で難解である。 そこで本研究では、走化性運動を分子レベルで解析するのに適した細胞性粘菌を題材に、「細胞の3次元形態」と「走化性誘導因子の刺激」を制御できる微小流路を用い、集団内の環境により近い条件で細胞の走化性運動を解析することにした。 本年度は、運動する細胞内の分子局在を観察するため、新規に細胞株12種を樹立した。樹立した新規株を用いることで、細胞の3次元形態が細胞運動に与える影響について、分子レベルでの解明を期待できる。続いて、本研究にとって主要技術である観察手法を確立した。運動する細胞内の分子局在、および細胞形態を共焦点顕微鏡により観察する手法に加え、基質面近傍の微細な膜形態を観察する手法を確立した。その結果、運動する細胞性粘菌についてこれまで報告にない膜変化の検出に成功した。さらに、もう1つの主要技術である細胞を閉じ込める微小流路についてもパターンの検討と解析を進めており、細胞1個体ほどの幅を持つ流路内に入った細胞について、2次元平面上では見られないF-アクチンの局在パターンを確認した。 得られた知見は細胞一般が示す基本的性質の理解に役立つのみでなく、医療研究にとって基盤となる知見を提供できるかもれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次の実験系の確立を目指した。実験には細胞性粘菌を題材として用いた。1.観察に用いる細胞株の樹立、2.細胞の3次元的形態、および細胞内分子の3次元分布の観察手法、3.細胞に加える走化性誘導因子刺激の制御と細胞膜形態の操作手法。 1.について、運動する細胞内の分子局在を観察するため、細胞株12種を樹立した。 2.について、検討は2次元平面上の細胞を用いて行った。検討の結果、細胞内分子の3次元局在の観察は共焦点顕微鏡により観察する手法を確立した。また細胞の3次元形態の観察には共焦点顕微鏡による手法に加え、さらに2通りの観察手法を確立した。1つの目の手法は干渉反射顕微鏡、2つ目の手法はフルオレセインと全反射照明蛍光顕微鏡を用いる手法である。これらの方法により、共焦点顕微鏡では検出困難な基質面近傍における微細な膜形態の変化の検出に成功した。 3.について、走化性誘導因子を細胞に加える方法として2通りの方法を検討した。1つ目はガラス平面上の細胞に加える方法であり、2つ目はPDMSもしくは低融点アガロースを素材とする流路内の細胞に加える方法である。ガラス平面上の細胞には、マイクロマニピュレーターに先の細いガラスニードルを設置する手法を確立した。流路内の細胞に対しては、細胞の入ったデバイスに走化性誘導因子を添加するチューブ内の圧力をシリンジポンプにより制御し、任意のタイミングで目的濃度の刺激を加えられるようになった。細胞膜の形態を操作する方法として2通りの方法を検討した。1つ目は先の細いガラスニードルを細胞に接触させる方法であり、2つ目はPDMSもしくは低融点アガロースを素材とする流路に細胞を閉じ込める方法である。用いた流路にはガラス平面上にはない”壁と天井”が存在し、各面の境界ではF-アクチンのパッチ上のパターンが生じることを確認した。 以上、当初計画していたペースで研究は進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
樹立した細胞株および確立した観察手法を用いて、F-アクチンなどの注目分子のダイナミクスに、2次元平面上と3次元形態を制御した環境下との間に違いを検出できるか、実験系および解析手法を試験する。その後、細胞に与える走化性誘導因子の濃度を変えて実験を行う。 特に注目する現象として、移動中の細胞およびF-アクチン波を示す細胞を観察する(F-アクチン波は基質接着面で見られる現象であり、細胞膜近傍のF-アクチンの高濃度領域が推移する様子は、波が伝搬するように見える。細胞運動への関与が示唆されており、例えば移動する細胞が障害物を避ける際に役立つとする説がある。)。第1年度目で得た結果から、F-アクチン波の伝搬に膜の変形が伴うこと、さらにガラスニードルにより人工的に変形させた細胞膜領域からF-アクチン波の伝搬が開始することを確認した。これらの結果は、F-アクチン波の伝搬に膜変形が重要であることを示唆する。F-アクチン波の細胞移動における機能的役割については未知な部分が多く、今後さらなる解析を進める。例えば、F-アクチン波の伝搬にともなうBARタンパク質の分布の観察や、走化性誘導因子に対するF-アクチン波の挙動の観察である。また流路パターンについても、細胞を閉じ込める流路の幅や高さを変えたデバイスを用意する他、足場の凸凹を変えたパターンも複数用意して観察を行う。 本年度の研究により新たに発見した細胞動態や分子メカニズムについてまとめ、学会発表や投稿論文として報告する。
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Research Products
(1 results)