2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J10232
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 幸史 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 宇宙線 / 加速器 |
Outline of Annual Research Achievements |
暗黒物質の解明に向けて、申請者はA. 現状の制限を厳密に評価し、B. 有望なモデルを示唆すると同時に、C. 各実験の将来的な制限を評価することを目標に研究を行った。それぞれについての実施状況は以下の通りである。 A.天の川銀河の衛星銀河である矮小楕円体銀河(dSph)からは非常に強い暗黒物質の信号が期待されている。申請者は天文グループとの共同研究を行い、dSph内を回る星の運動データから、内部の暗黒物質量を推定することを行った。特に従来課せられていた球対称という仮定を外し、推定にかかるバイアスを減らした。その結果、暗黒物質量を従来の手法より妥当に評価することに成功した。 B. 2015年の12月、大型ハドロン加速器にて3σの超過が報告された。この発見を受けて、申請者たちは超過を説明する模型を構築した。模型は申請者が以前より研究対象としていた粒子の束縛状態による増幅効果を利用するものであり、その着眼点や模型の単純や厳密性に特色がある。 C-1. 将来、国際線形加速器計画により、より詳細な暗黒物質の性質解明が行われることに間違いはない。申請者たちは電弱相互作用をする暗黒物質がe+e-→SM事象のイベントに補正を与えることに注目し、この補正効果による検出感度を厳密に評価した。 C-2. より高精度に暗黒物質量を推定するには次世代分光器による星のデータ収集が必要不可欠である。申請者は前述したdSphを対象に、次世代超広視野分光器(PFS)サーベイの可能性をPFSグループとの共同研究により検証した。研究を通して、PFSにより従来の3倍以上の星のデータが収集できうることが明らかになった。またdSphと太陽系の間に存在する『前景星』の混入が暗黒物質密度の推定に極めて強く影響を及ぼすことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以下のように、研究計画に対して十分以上の進展を見せた。 A-1. 暗黒物質の分布についての解析: 次世代分光器PFSによる星の運動の観測可能性およびその観測による暗黒物質分布への制限を与えることが目標であった。申請者たちは、実際にこれをPFSグループとの共同研究により行った。また研究の過程で、前景星の影響が無視できないことを発見し、その取り扱いについて新たな手法を開発した。 また2年目に行う予定であった暗黒物質密度分布の非球対称な場合の解析についても天文学者との共同研究により評価し、最も信頼性の高い密度推定の結果を発表した。 A-2. 宇宙線により、暗黒物質に厳密な制限を与えることが目標であった。実際、前述した非球対称な場合の密度分布評価の結果と更新されたγ線観測衛星Fermi-LATのデータを合わせ、暗黒物質に対して厳密な制限を与えた。 B.モデル構築では、超過に対して最小限の仮定のもと、上手く加速器の制限を逃れつつ、暗黒物質を説明できるような模型を作ることを目標としていた。実際、申請者たちはLHCにより発見された3σを超える兆候に対して、最小限の仮定で暗黒物質を含むように構築することに成功した。この際、研究計画の特色として挙げた非相対論的な増幅効果の取り扱いが極めて重要な役割を果たした。 C. 次世代線形加速器による将来的な制限を特にAMSBモデルから示唆されるウィーノ暗黒物質に対して評価することが目標であった。申請者たちはウィーノ暗黒物質のみならず、より一般的な電弱相互作用をする暗黒物質に対して線形加速器による制限を評価した。この時、線形加速器解析の専門家との共同研究により、バックグラウンドや系統誤差の影響を定量的に見積もることも行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下のように1年目の成果をさらに発展する形で研究を進めてゆく。 A-1. 暗黒物質の分布についての解析: 現在のdSphの星のデータにどれぐらい前景星が混入しているかを評価する。具体的には、現在の観測環境に出来る限り近いモックを構成し、実際の観測データと比較する。混入の度合を示した後、実際にモックから分布推定を行うことで、"前景星混入による隠れバイアス"の大きさを明らかにしてゆく。 A-2. 宇宙線による暗黒物質への制限: A-1で得られたdSphの密度分布をγ線観測の結果と組み合わせ、厳密な制限を与えてゆく。また同時に拡散γ線やγ輝線、電波や荷電宇宙線の観測などによる制限もその厳密さを考慮しつつ評価してゆく。 B. モデル構築: 最新の実験結果からくる制限・兆候を追いながら1年目と同様に有望なモデルを示唆する。 C. 将来的な制限: 宇宙線を用いた暗黒物質の検出においては、次世代γ線望遠鏡CTA や電波望遠鏡SKAに注目が集まっている。信号から暗黒物質の反応率などを引きだすには、対象となる天体内の暗黒物質量や磁場などを正確に評価しなければいけない。申請者は複数の観測を組み合わせ、これらの値を評価してゆく。また、PFSを使った暗黒物質分布サーベイについて、近年発見が相次いでいる非常に暗いdSph (UF-dSph)を対象に行う。UF-dSphは従来のdSphより地球に近く存在し、大きな暗黒物質の信号が期待されている。しかし一方で明るい星の数が少なく、暗黒物質量を現状のデータから見積もることは極めて困難である。そのため、PFSによる星の運動データ増加が決定的な役割を果たす。申請者たちは1年目の研究で培った手法を拡張し、その将来性を検証してゆく。
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Research Products
(11 results)