2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J10299
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
阿部 亮太 法政大学, 大学院人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 保元物語 / 平治物語 / 平家物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
『保元物語』流布本系統の古態に遡るために古活字本・大東急本・蓬左本を比較し、前二者を併用することが原態への遡及に有効だという知見を得た。また、文保・半井本系統と宝徳本系統の混態とされる龍門本(奈良県阪本龍門文庫所蔵)と、語り物系統本文として重要な金刀比羅本『保元物語』『平治物語』(香川県金刀比羅宮所蔵)の書誌を調査した。前者は、二系統本文の混淆が語句・文章・記事と様々な単位で激しく行われており、独自異文も多く、再検討を要する。後者からは、『平治物語』の貼り紙に「閑院三条実有卿」、また金刀比羅宮所蔵『宝物台帳』寄贈者欄に「松崎保」の名が載り、当該伝本の伝来を知る端緒を得た。さらに、愛知県野間大坊にて江戸時代より始まるという「義朝最期」の絵解きの実態を調査し、その詞章や展開が流布本系統『平治物語』と共通点が多く、江戸時代の語り物は入手しやすい本文に依拠すると推定された。以上の研究は本年度の発表・論文化を目指す。 加えて、保元の乱と平治の乱を一組の戦乱として捉える、「保元・平治」と称すべき認識の形成過程を、『保元物語』『平治物語』『平家物語』(軍記三作品)諸本や周辺の文献を用いて調査した。その結果、「保元・平治」という認識は、軍記三作品が初めて文献上に採用したことで一般に流布したと判明した。この研究は2016年1月24日の軍記・語り物研究会第408回例会(於早稲田大学)で口頭発表し、現在は『国語と国文学』に投稿、審査中である。 同時に延慶本『平家物語』の注釈的研究も進めており、巻十の注釈については2015年8月29日の紀州地域共同研究会(於和歌山大学)で口頭発表した。さらに、巻十一「重衡卿、日野ノ北方ノ許ニ行事」以下四章段分の注釈原案を作成し、2015年11月8日(於青山学院大学)で口頭発表した。いずれも延慶本注釈の会編『延慶本平家物語全注釈』(汲古書院刊)各巻に収載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
『保元物語』流布本系統の古態追求は順調に進み、他文献との比較検討という次の段階に課題を移している。かつ、野間大坊での絵解き調査により、『平治物語』流布本系統と語り物本文の関係という新たな観点を得、この問題が流布本『保元物語』本文にも示唆を与えるものと見込まれる。次に龍門本『保元物語』については、文保・半井本系統及び宝徳本系統の古態を探る上で欠かせないものである点、さらに同『平治物語』についても調査を要する点の二点が判明し、今後の研究の指針を得た。そして金刀比羅本『保元物語』『平治物語』の書誌調査からは、一伝本の具体的な伝達経路(すなわち宝徳本系統本文の管理圏)の推測という、当初予定していなかった新たな問題点を発見できた。このように、未発表ではあるものの、全てにおいて更なる課題を得ることができ、研究は進展しているといえる。 「保元・平治」という歴史認識の形成過程を追求した目的は、『保元物語』『平治物語』『平家物語』(軍記三作品)の原作から現存伝本に至る大きな本文流動のなかで、改変されずに保持されてきたであろう本質、すなわち歴史認識のあり方を知るためである。したがって、この研究は『保元物語』諸本の本文研究において最も基礎的な文学観に関わり、なおかつ広汎な文献の精査を要する。こうした煩瑣な作業を経て昨年度中に口頭発表できた点、また会場でも好評を得た点、本年度冒頭には『国語と国文学』投稿に至った点で、大きく捗った点と考えている。 延慶本『平家物語』の注釈的研究は、当初の計画にはなかったが、急遽巻十一終盤四章段分の注釈を担当することとなった。とはいえ、昨年度11月の口頭発表では充実した資料を提供でき、かつ一定の評価を得た点で、自らの知見も広がったと判断している。延慶本『平家物語』は軍記物語研究における最重要伝本であり、その注釈的研究の推進は『保元物語』研究の発展にも繋がるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに掲げた研究について、浮かび上がった課題を分析して問題点を焦点化し、集中的に考察すること、及び各研究内容に見合った学会での口頭発表、また学術雑誌絵の投稿を念頭に置いて研究を進める。 『保元物語』流布本系統の古態追求においては、比較検討するべき文献を絞っていく作業、つまり注釈的研究により本文の典拠を明らかにし、本文の成立環境を限定していく必要がある。また野間大坊の由来や、流布本『平治物語』本文と絵解きの詞章との比較検討を行うことで、琵琶法師による語りの存在は確認されるものの、その全容が明らかではない『保元物語』『平治物語』の語りの実態の一端を探れるだろう。野間大坊の語りについては、本年度9月の説話文学会例会での発表と同機関誌への投稿を目指す。 龍門本においては、前回の調査を踏まえて問題点を整理し、再び現地へ赴いて本文の性格を把握する。また金刀比羅本の伝来に関しては、「三条閑院実有卿」すなわち正親町三条実有と、高松藩家老の松崎家出身と思しい「松崎保」について、地誌・公卿日記等を確認する。そのほか、宝徳本系統本文においても注釈的研究を進め、本文の生成された環境を調査し、成立時期を更に絞り込みたい。金刀比羅本については、本年度11月頃の中世文学会での発表と同機関誌への投稿を考えている。 また、歴史認識の問題を扱うなかで、最古態本と目される文保本・半井本、及びそれに次ぐ鎌倉本の本文が具体的にいつ頃成立したのかが重要な意味を持った。この両本については、注釈的研究はもちろんだが、内容の精読により内部矛盾や文脈の不整合等、編集の痕跡が窺える箇所を抽出していく。そして特に、文保本と半井本、鎌倉本と宝徳本の比較を通して、共通祖本の想定(古態追求)や各系統本文の改編意図(成立の問題)を究明したい。これらの成果は随時、軍記・語り物研究会の例会で発表し、同機関誌に投稿することを目標とする。
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Research Products
(3 results)