2015 Fiscal Year Annual Research Report
新規カルコパイライト材料の成長方位を制御するメカニズムの解明と太陽電池応用
Project/Area Number |
15J10424
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
宇留野 彩 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 結晶工学 / 近接昇華法 / カルコパイライト / 太陽電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、Mo上のAgGaTe2の成長方位を制御する機構の解明と太陽電池の変換効率の向上である。そのため初年度はAgGaTe2太陽電池の作製を行い、特性改善についての検討を行う予定であった。そこでAu/ZnO/CdS/AgGaTe2/Mo/glassという構造の太陽電池の作製を目指した。単にMo上に薄膜を作製しただけではAgGaTe2配向制御が困難であると考えられるため、MoとAgGaTe2の間に中間層としてAg2Te層を導入することとした。結果として、Mo/glass基板上に成長方位の揃った結晶性の良いAgGaTe2膜の作製に成功し、中間層の網目状構造におけるキンクがAgGaTe2の核成長を促進させている可能性があることが明らかとなった。このことから成長方位を制御するメカニズムの解明への知見を得ることに成功した。これらの研究成果をPhys. Status Solidi C 12, 508 (2015)にて報告を行った。 また、Si基板上にAg2Te中間層を用いたAgGaTe2薄膜の作製に試み、電気的特性の評価を行った。原料にAg2TeとGa2Te3を混ぜ合わせたものを用い、それらの比を変化させることで、Ag/Ga供給比を変化させることにした。結果として、Ag2TeとGa2Te3を混ぜ合わせたものを原料として用いた場合でもAgGaTe2の作製に成功した。さらにAg2Te-Ga2Te3系の状態図に対応するように得られた膜の組成が変化することが明らかとなった。C-V特性から、電気的特性を評価し、またn-Si基板とのヘテロ接合を用いて太陽電池を作製した結果、3.0%の変換効率を実現した。これらのことから作製したAgGaTe2は新規太陽電池材料として適していることがわかった。これらの研究成果を、The 2015 U.S. Workshop on the Physics and Chemistry of II-VI Materialsで口頭発表を行った。また電気的特性以外にも結晶性や光学的特性などの探査を行った。Ag/Ga供給比を変化させることにより、電気的特性や光学的特性が変化することも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記に示したように、成長方位を制御するメカニズムの解明への知見を得ることに成功し、またn-Si基板とのヘテロ接合を用いて太陽電池を作製した結果、3.0%の変換効率を実現した。これらのことから作製したAgGaTe2は新規太陽電池材料として適していることがわかった。しかしAgGaTe2の作製温度が800℃程度であり、一般的な太陽電池材料の作製温度と比べて高温であるため、Mo膜上にAgGaTe2を作製する際、Mo膜がガラス基板から剥がれやすくなることが本年度の研究で明らかとなった。このことはAgGaTe2膜の上にCdSやZnOを作製することが困難になる可能性があり問題となる。よって本年度は、新たな研究としてガラス基板との密着力が高いMo膜の作製も行った。ガラス基板とMoとの間にガラス基板との密着力が高いとされているCr層やNi層を挟むことで、800℃の高温化でも密着力の保たれたMo電極の作製に成功した。 さらに2年度の目的に計画していたAgAlTe2(バンドギャップ2.3eV)とAgGaTe2の混晶を作製しバンドギャップ制御を試みた。ソースとしてAgGaTe2粉末とAgAlTe2粉末を混ぜ合わせたものを使用することで、Ag(Gax,Al1-x)Te2混晶膜の作製に成功した。透過率を測定することでバンドギャップの評価を行い、2.0eVから2.3eVまでのバンドギャップ制御に成功した。これらの研究成果を、“J. Electron. Mater. 44, 3013 (2015)”“Phys. Status Solidi C(掲載決定済)”にて報告を行った。“The 17th International Conference on II-VI Compound and Related Materials”で口頭発表を行った。2年度目の目的であるAgAlTe2との混晶の作製にも成功し、本年度の研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述したとおり、過去の研究で得られたAgGaTe2の作製条件をもとに、Au/ZnO/CdS/AgGaTe2/Mo/glassという構造の太陽電池の作製を目指したが、Mo膜がガラス基板から剥がれやすくなることが本年度の研究で明らかとなった。このことはAgGaTe2膜の上にCdSやZnOを作製することが困難になる可能性があり問題となる。よって本年度は、新たな研究としてガラス基板との密着力が高いMo膜の作製も行い、ガラス基板とMoとの間にガラス基板との密着力が高いとされているCr層やNi層を挟むことで、800℃の高温化でも密着力の保たれたMo電極の作製に成功した。そこで2年度目はこの研究成果をもとにAu/ZnO/CdS/AgGaTe2/Mo/glass太陽電池の作製を目指す予定である。AgGaTe2/Mo界面において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面観察や組成分析を行い、中間層の状態やMo-Te層の存在などについて検討を行う。そして、AgGaTe2/Mo界面領域の組成が太陽電池の諸特性に与える影響について検討を行い、高い変換効率のAgGaTe2太陽電池の作製に関する知見を得る。 また引き続き、Ag/Ga供給比を変化させることにより、AgGaTe2の結晶性、光学的特性、電気的特性などの特性がどのように影響するのか詳細に探査を行う予定である。電気的特性に新たにHall測定を導入することで、導電型,導電率,キャリア濃度,移動度などを詳細に求めて、Ag/Ga供給比との関係を調べる。Mo上のCuInSe2の場合、Cu-richの場合導電率が高いことが知られているので、AgGaTe2ではAg-richだと導電率が高いのではないかと予想される。 現在までに2.0eVから2.3eVまでのバンドギャップを持つAg(Gax,Al1-x)Te2混晶膜の作製に成功した。2年度目はさらに広範囲のバンドギャップ制御を目指す。混晶組成比とバンドギャップの関係を調べ、ボーイングパラメーターを明らかにする。太陽光スペクトルを最も効率よく吸収する禁制帯幅1.4eV付近での組成比で、太陽電池作製も行う。
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